マザー・グースの誕生(鈴木一博著・教養文庫)感想

教養文庫。現代教養文庫とも。古本屋の棚で多数を占めることは決して無いものの、その背表紙のシンプルさゆえに独特の存在感を感じます。今回はその教養文庫の一冊、鈴木一博著「マザー・グースの誕生」を取り上げます。1986年8月30日初版発行なので、32年前の本ということになります。出版元の社会思想社が倒産したせいか、タイムカプセルに似たものを感じます。

 
本書は、タイトルから見当がつくようにイギリスに昔から伝わる童謡、マザー・グースの、いわゆる「ネタ元」が載っている本です。まず、目次を一通り書いてみます。

第1章 伝統童謡と歴史

第1節 ロンドン橋
第2節 いけにえ
第3節 コール王
第4節 アーサー王
第5節 聖者
第6節 カヌート王
第7節 巨人
第8節 月
第9節 「呑みこみ」
第10節 ロビン・フッド
第11節 ゴタムの賢人
第12節 ウェールズ人
第13節 乞食
第14節 イングランドとスコットランド
第15節 火薬陰謀事件
第16節 チャールズ一世
第17節 バンベリークロス
第18節 ローソクとび

第2章 伝統童謡と自然や風俗

第1節 雨
第2節 鳥
第3節 家畜
第4節 飲食物
第5節 結婚
第6節 「売り声」

こうしてみると、マザーグースがイギリスの様々な事象に触れていてることがわかります。逆に言うなら、マザーグースを知ることはイギリスに関する様々な事柄を知ることにつながります。建築物、伝説、風習、気候、自然、土地柄、事件、人物など、断片的ですが題材が広範囲にわたっています。散歩になぞらえるなら、大通りを歩いて目につくものではなく、細い路地の奥に潜んでいるものを見つけるような感覚に近いものがあります。

文章は全体的に平易で気軽に読むことができて、コール王やカヌート王などこの本で初めて知ったことも多々あって結構いい感じで読むことができました。ただ気になったところもあり、「スコットランド人は(略)アイルランドやウェールズとは違い、民族意識に基づく紛争や、あるいはイングランド人に対する強い反感といったものはあまり見られないのである。」(P111)については、32年前は本当にそうだったのか、疑問に思う箇所もあります。Amazonレビューで「間違いが散見される」という意見もあり、そこは若干気になるところです。

(参考) スコットランド独立問題 なぜスコットランドはUK独立を希望するのか?
最新の調査では37%がスコットランドをUKから独立させたいと考えている、とのことです。

私が特に興味をもったのは、昔からの、あるいは昔ならではの言い伝えや考え方が垣間見えるところです。例えばカッコーは冬になるとタカに変身するとか冬眠する等と信じられていた(P138)とか、またミソサザイとコマドリが番(つがい)であると誤解されてきた(P143)などという話を読むと、昔は昔で今では思いもよらない発想があり、想像力に富んでいた世界であったことを少しうらやましく思いました。

あと、マザーグース本といえば中公新書の平野敬一著「マザー・グースの唄」もおすすめです。こちらは歌の紹介や解説だけでなく日本に紹介された経緯や本国でまとめられた経緯にも触れていて、より多面的にマザー・グースについて知ることができます。
 
 
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童謡、つくりました。


「しあわせ」歌は雛音サラさんです。
 

 

以下はイギリス特集です。

ボウイのアルバムは「LONDON GAME」という曲があるため(苦し紛れ)。最後のは途中からイギリスが舞台となるゲームで、よくできてます。おすすめ。