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  • よみがえる卑弥呼(古田武彦・朝日文庫)感想

    「出雲風土記が江戸時代に改ざんされていた」?今まで色々と日本の歴史に関する本を読んできたのですが、この本の最初の話は相当ショッキングな部類に入るでしょう。出雲風土記に「朝廷」の文字がある。大和朝廷のことだろう。しかし、冒頭の一文から「宮」の字を削られていたら?細川本、倉野本、日御崎本、六所神社本の冒頭にはこの「宮」の字が残っている。となると、ここでいう「朝廷」とは大和朝廷ではなく、杵築の地に支配者がいてその支配下にあったことを示しているのではないか……

     
    今までブログで取り上げた日本神話に関する本、上田正昭著「日本神話」(岩波新書)と平野仁啓著「日本の神々 古代人の精神世界」(講談社現代新書)はこの点には触れていませんでした。ただ、今後は日本神話、特に出雲神話に関する箇所を読む場合は上記を注意して読む必要がありそうです。

    ここで本書の説明を。全部で十篇の文章からなっていて、そのタイトルは以下の通りです。

    第一篇 国造制の史料批判-出雲風土記における「国造と朝廷」

    第二篇 部民制の史料批判-出雲風土記を中心として

    第三篇 続・部民制の史料批判-「部」の始源と発展

    第四篇 卑弥呼の比定-「甕依姫」説の新展開

    第五篇 九州王朝の短里-東方の証言

    第六篇 邪馬壹国の原点

    第七篇 日本国の創建

    第八篇 好太王碑文「改削」説の批判-李進煕氏『広開土王陵碑の研究』について

    第九篇 好太王碑の史料批判-共和国(北朝鮮)と中国の学者に問う

    第十篇 アイアン・ロード(鉄の道)-韓王と好太王の軌跡

    では続きを。その後の議論を読むと想像力で空白を埋めて読者の思考を追い込むような言い方、「そのように解する他ないからである。」「以外の何物でもなかったのであった。」「そのように見なす以外の道は存在しないであろう。」「肯定せざるを得ぬ、」そんな感じの表現が頻出していて、心の中で距離を置いて判断したほうが無難なように思いました。特に、あまり話題に取り上げられない着眼点については一層強くそう感じました。下手に感銘を受けて考えが偏るよりも覚えていないほうがよっぽどましというものです。本書の初出は1987年。著者がおよそ3年後に偽書「東日流外三郡誌」に入れ込んだ背景にはこういう思考様式が影響したのではないか、そんなことも考えました。

    本書はそれ以降も、同様に江戸時代の国文学者によって改ざんされたと思われる箇所の列挙と、改ざんされる前の文章からの推測などがつづられています。手が入れられた箇所が結構あって驚いたり、また、にわかには信じがたい論もあって、卑弥呼が筑後風土記逸文に記された甕依姫(みかよりひめ)である、「里」は1里が76m~77mの短里である、などという話を読むたびにちょくちょくウィキペディアで確認したりもしました。後者について中国の研究者はどのような見解なのか気になります。また、改ざんとは関係ないのですが、「法は、律令に非ず」という話も、学識がない私のような読者が踏み込んだ判断をしてはいけないように感じられました。

    卑弥呼については、その政治的地位の大きさから何かの書に書かれていてもおかしくはないが、その書が現存しているとは限らない、例えば失われた風土記に記述された可能性もあるのではないかと考えています。

    また、魏志倭人伝の「邪馬壹国」が江戸時代に「邪馬臺国」に改定された、という話もでてきます。Wikipediaの邪馬台国の項目によると、

    ・現存する「三国志(魏志倭人伝)」(晋の時代に陳寿(233~297)が編纂)の版本では「邪馬壹國」
    (最古のものは、12世紀の宋代の紹興本(紹興年間(1131年~1162年)の刻版)と紹熙本(紹熙年間(1190年~1194年)の刻版))

    ・「太平御覧」(10世紀に成本)の「三国志」引用箇所は「邪馬臺国」
    ・「後漢書(倭伝)」(5世紀に書かれた)では「邪馬臺国」
    ・「梁書(倭伝)」(7世紀)では「祁馬臺国」
    ・「隋書」(7世紀)では「都於邪靡堆 則魏志所謂邪馬臺者也」(魏志にいう邪馬臺)
    ・「北史(四夷伝)」では「居于邪摩堆 則魏志所謂邪馬臺者也」
    (これらの正史は、現存の宋代の「三国志」より古い写本を引用、11世紀以前の史料に「壹」は見られない)

    とのことで、また、古田史学会報 57号のページによると、著者は「魏志倭人伝で邪馬臺国と呼ばれるのは問題だが、後漢書(倭伝)」で邪馬臺国と呼ばれるのは問題ない、という考えのようです。本書ではそこから「魏志倭人伝の邪馬壹国」は「壹」という国の「邪馬」という地域を指しているのではないか、という話になります。私はこのケースでは「邪馬壹国」という原文を提示した上で「臺の誤りか」という注釈のほうが筋としては通りやすい印象を受けます。「邪馬壹國」の表現についても、中国の研究者の意見も確認しておきたいところです。

    好太王碑文の改削説については、私が高校の頃に習ったときには「見解が分かれている」という話でしたが、今はどう教えているのか気になるところです。本書の説で改削は完全に否定されたということでいいのでしょうか。

    その一方で、もしかしてこれは覚えておいたほうがいいのかもしれない、と感じた点もあってP151の「部」の用語の起源の問題や、古代史において中国だけでなく朝鮮半島の資料にも目を配ることは押さえておいたほうがいいように思いました。

    読んでいて全般的にもう少し表現を抑えたほうがいいように感じました。久保帯人の漫画「BLEACH」の「…あまり強い言葉を使うなよ 弱く見えるぞ」というセリフをチラつかせつつ、この一冊で考え方が囲い込まれないよう自覚しながら読むのが丁度いいのでしょう。また、この本のことではないのですが、歴史本は外れだった場合は金も時間も精神力も失われるので難しいもんだなあと思う次第です。
     
     
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    今回はこの曲です。ロマンに想いを馳せられるよう……


    「水の鏡α」歌はUったんぽいでさんです。
     

     

    古代史の本を中心に集めてみました。右端は「新訂 魏志倭人伝・後漢書倭伝・宋書倭国伝・隋書倭国伝」です。

    下段右端は「蛇 日本の蛇信仰」、古代日本の蛇信仰の本です。


  • オホーツクの古代史(菊池俊彦著・平凡社新書) 感想

    今年初の記事です。皆様今年もよろしくお願いいたします。
     

    今回のお題。


     
     
    ●そもそも私は何が知りたかったのか

    その書名が示す通りオホーツクの古代史であり、つまり政治史と文化史です。古代オホーツクの複数の民族集団について、誰が統治していてそれらの内外でどのような抗争があったのか。その人たちはどのような文化があり暮らしを営んでいたのか。特に神話とか伝承の類とか、その辺を知りたいと思い購入したのですが。
     
     
    ●この本に書いてあったこと

    一言でいうなら、古代オホーツク文化の担い手に関する研究史でした。昔の中国の資料、「通典」「唐会要」「新唐書」「資治通鑑」に流鬼(流鬼国)から朝貢の使節が長安にやってきた。流鬼(流鬼国)はどこにあるのか。それはどんな民族であったか。それらの問題を検討しながら、昔の中国の資料の読み解きや近代の研究がまとめられています。

    その検証の過程で流鬼の民族の文化が垣間見えるところもあります。馬に乗るのが不得手なこと。土器・骨角器・金属製品。住居址。そして交易品「骨咄角(こつとつかく)」……しかし。
     
     
    ●感想

    これを「秘められた古代史にスリリングに迫る!」と書くことも可能なのでしょう。でも、私は普通の歴史の教科書みたいに結果だけを知りたかったので、その意味では期待に添えるものではありませんでした。昔の中国の資料の解釈をしているので、それに興味がある方ならもう少し楽しめそうな気がします。

    ただ、書く側になって考えると研究・論争史を書きたかった、という気持ちはわかるのです。調べる側からすれば結果はただあるのではなく、多いとは言えない資料や遺跡からの出土品と、それを埋める何十もの考察の上に成り立つものなのだから。なので、私みたいにこのテーマについて回りくどいのが苦手な方には本書はおすすめできません。逆に、それらの過程を含めて興味がある方には一読をおすすめすします。
     
     
    ●その他

    P.172に「それゆえに阿倍比羅夫の粛慎(みしはせ)征討の記事は実際の事実の記録ではなく、阿倍比羅夫の航海の何らかの本来の目的と任務は別にあり、それを隠すためにはるか中国北方の粛慎(しゅくしん)の名前を持ち出したフィクションにすぎないだろう。」(注:フリガナを()内に表記しました。)という一節があり、著者なりの見解に基づいた上で書かれているのですが、そこまで言い切っていいものなのだろうかとそこは疑問に思いました。

    参考:粛慎 (日本)(Wikipedia)
     
     
    ●個人的なメモ(半纏・バレ注意)

    流鬼(流鬼国):サハリン島 オホーツク文化の人たち:ニヴウ民族(旧称 ギリャーク民族)
    夜叉(夜叉国):サハリン北方のオホーツク海北岸のコリャーク民族
     
     
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    今回は北へいざなう動画。


    「雪景色着陸」 津軽海峡から千歳への空撮、BGM付です。
     

     

    以下はオホーツクの特集です。