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  • フランス名詩選(岩波文庫)感想とメモ、魂の音楽!

    古本屋でこの本を見つけたときはショックでした。お値段100円だなんて。本の状態は確かに新品とはいえないのですが、目立った汚れもなく普通に読めるのに。さらに言うならこの本は約380ページあって本の厚さはおよそ15mm、岩波文庫にしては厚いほうです。売れなければ古本の値段は安くなるものですが、これはさすがにちょっと……と思い、飛びつくように購入しました。

     
    バラード(Ballade)、ロンドー(Rondeau)、ソネット(Sonnets)。いずれも詩の形式で、名前はきいたことがあるのですが実物を目にしてこういうものだ、と感じると印象が変わってくる、というか印象が充実してくるものです。洋の東西を問わず美を追求する心があり、それが詩、定型詩を生み出したことをしみじみと感じました。

    この本はフランス語の原文とそれを日本語に訳した文が載っています。私はフランス語が読めないので日本語訳だけ読んだのですが、原文を読める人の半分以下しかその良さがわからないのだろうなあ、と思いました。そこは控え目に捉えておきます。

    そこで少し考えたこと。この詩集(安藤元雄、渋沢孝輔、入沢康夫編)のみならず他の翻訳された本にも言えることですが、作者が違えば文体、文章の感触も違ってきます。それを翻訳者はどのぐらい考慮して書き分けできるのか、あるいは、翻訳者も創作者の一人であり作者独特の雰囲気を味わいたければ元の言語を習得するべき、と割り切ったほうがいいのか。作品に触れる都度、程度を考慮して両者の考え方を使い分けるべきなのだろうなあ、と思いました。

    余談ですが、巻末に各詩の作者(全60人)が紹介されているのですが、カトリックに回心した人が目立ちました。5人。

    それとこの本、初版が1998年なのですね。今から20年以上前の本なのですが、40代後半の私にとっては数値の上では20年以上前でも「つい最近」という感覚がします。もっと昔からあるような雰囲気なのですが、自分が大学生の頃にはまだ存在していなかったことに違和感があるとともにちょっと「へぇー…………」といった思いがしました。

    タイトルの「魂の音楽」は安藤元雄による解説に出てきた言葉です。その解説で本書について述べた「ここから、覗く窓は小さくとも、一つの詩的世界の総体をうかがうことが可能となればありがたい。」という言葉が心にしみます。
     
     
    以下は自分用のメモです。私がいいな、と感じた作品を書いておきます。

    P 57 16 私の部屋 マルスリーヌ・デボルド-ヴァルモール
    P 67 18 牧人の家(抄) アルフレッド・ド・ヴィニー
    P 83 22 眠るボアズ ヴィクトル・ユゴー
    P111 30 泉 テオフィル・ゴーチェ
    P151 42 [純潔に、生気あるれ、美しい今日は] ステファヌ・マラルメ
    P155 43 燻製にしん シャルル・クロ
    P163 46 [街に雨が降るように]街に静かに雨が降る(アルチュール・ランボー) ポール・ヴェルレーヌ
    P171 49 ひき蛙 トリスタン・コルビエール
    P189 53 曙 アルチュール・ランボー
    P193 54 髪の毛 ルミ・ド・グールモン
    P197 55 ニースのノートルダム寺院のオルガン弾きの嘆きぶし ジュール・ラフォルグ
    P209 57 ひばり サン-ポル・ルー
    P223 60 [雪がふりそう…] フランシス・ジャム
    P227 61 消えうせた葡萄酒 ポール・ヴァレリー
    P229 62 足音 ポール・ヴァレリー
    P239 64 フランスのバラード(抄) ポール・フォール
    P275 75 踊り子 ジャン・コクトー
    P327 90 樹 ジュール・シュペルヴィエル
    P335 93 眠りの神のノート(抄) (眠りの神=イプノス) ルネ・シャープ
    P345 96 鳥の肖像を描くために ジャック・プレヴェール
    P351 97 Paris at night ジャック・プレヴェール
    P355 99 空席 ジャン・タルデュー

    再読したら、いくつか加わるかも。
     
     
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    今回はこの曲です。ピアノバージョン。


    タイトルはフランス語。三好達治の詩に曲をつけてみました。
     

     

    フランス関係の本を少し集めてみました。


  • 五重塔(幸田露伴著・岩波文庫)感想

    まず二つ。一つ目。話の進め方が上手いな、と思いました。日本文学である以上、登場人物の心情の洞察などが語られることが多いのですが、エンタメ的な視点で読者の予想、次にこうなるだろうな、というのをいい意味で意表を突きつつ次の場面に移っていく感覚は「次にどうなるんだろう?」という気持ちが湧いてきて読んでいて気持ち良かったです。文学の囲いに入れられてつまらなさそうだと思われて読んでみたらエンタメ的な意味で「いける」作品はかなりあると思います。

     
    二つ目。最初の印象は「読みづらい……」でした。読むの挫折するかも、ともちょっと思いました。1892年(明治25年)、今から125年以上前の作品です。文体をいろいろ模索していたせいもあるのでしょうが、私は今の文章よりもむしろ昔の古典文学、「徒然草」とか「方丈記」の文体に近い印象を持ちました。でも読んでいくうちに慣れてきて、上人が主人公の十兵衛と源太に説法するシーンでなんとかいけそうだと感じてきました。文体より話の続きのほうが気になって読める、そんな感じでした。

    タイトルや表紙の説明からは想像できないほどのバイオレンスなアクションシーンもあったりで、本当に本というのは読んでみるまでわからないものだな、とつくづく感じました。その場面でインパクトのある言葉が、

    「拳殺す」(読み:はりころす、殴り殺すの意味)

    で、この頃は漢字と日本語をどう合わせるか今ほど定まっていない時代のようで、独特な言葉遣いや言い回しが沢山でてきて、それを見るのも楽しい一面もあります。好色漢(しれもの)、手脱る(てぬかる)、森厳しき(こうごうしき)、記臆のある(ものおぼえのある、今でいう物心の意味合い?)、仮令(たとえ)、滅法界(めっぽうかい)、仁慈(なさけ)、隷属(みうち)、鎮圧め(しずめ)……いくつか書き写してみましたが、こういう表現が好きな方にはこの意味合いでもおすすめできます。

    更に。この小説の「嵐」の描写が物凄かったです。解説でも取り上げられており昔から評判だったようですが、私は平野耕太の漫画「ヘルシング」のロンドン攻撃時のシーン(「落とせ ロンドン橋もだ 歌のように」のセリフのあるコマ)を思い出しました。読んでいて「中二病(厨二病?)」という言葉も浮かんだのですが、よくわからないのでやめときます。それでも、文豪の中二病的表現は凄まじいです。ここから読めます(青空文庫、「夜半の鐘の音の曇って」で検索、それ以降の箇所)。ここだけでも是非ご一読を。

    その一方で、夫婦が仕事のことで喧嘩したり、酒場で仕事の愚痴を吐いたり、めんどくさそうな人がいたりで人間って大して変わっていないところもあるよなあ、と少し感慨にふけったりもしています。

    一番心に残った描写が、感応寺からの帰り道で、一世一代の念願の仕事を請け損なったと思い込み「半分は死んだやうに」なった十兵衛の「夢のやうに生きて夢のやうに死んでしまへばそれで済む事」という思いで、確かに私も、そう感じること、というか、そう感じたいこともなくはない、とだけ言っておきます。

    それにしてもこの小説は、読み返す度にいろいろ発見がありそうな予感がします。これでもう少し読みやすい文体なら……と思うのですが、この文体でなくなったらこの小説でなくなってしまうのが悩ましいところです。

    解説もなかなかこの小説の核心を掴んだ内容で満足しました。岩波文庫で110ページ、短めの作品ですが読んでよかったです。読みづらいことだけが今の時代では玉に傷ですが、おすすめします。
     
     
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    今回はこの曲です。


    文学関係。三好達治の詩に曲をつけてみました。
     

     

    今まで読んだ岩波の日本文学とヘルシングです。