金融庁の審議会報告書 不足する年金2000万円の内訳

野党と、この件で野党に肯定的なマスコミに今一度問いたい。本当にこのまま麻生太郎金融相を追求していいのか、と。

金融庁「老後資金2000万円不足」報告書の根底にある政府の大きな問題点
老後の生活費の不足分は30年で2000万円に、金融庁がまとめた日本人のお金の危機的状況点

上記の記事によると発端は今年2019年6月3日の金融庁の報告書とのことで、それはこちらの「金融審議会 『市場ワーキング・グループ』報告書 の公表について」から読むことができます。「(別紙1) 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」がその報告書です。

全51ページのこの報告書のP10(PDF上では15/56)に「しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる。 」という記述があり、その下の図がその根拠です。図の下に「第21回市場ワーキング・グループ 厚生労働省資料」と書かれています。

この資料は「金融審議会『市場ワーキング・グループ』21回)議事次第」のサイトにあります。「資料2 厚生労働省提出資料」のP24(PDF上では26/52)に同じ図が掲載されており、その右下に「(出所)総務省『家計調査』(2017年)」の文字が見えます。

総務省の平成30年5月18日の報道資料のサイトによると、統計局ホームページまたは政府統計の総合窓口(e-Stat)から御覧くださいとのことですが、前者のリンクは今は2018年の資料につながっているので注意が必要です。後者の年次(調査年)のリンクからこちらにたどり着きます。ここの「表番号 3-12 (高齢者のいる世帯)世帯主の就業状態別 二人以上の世帯」のExcelデータ列AT「高齢夫婦世帯(夫65歳以上,妻60歳以上で構成する夫婦一組の世帯)の無職世帯」が先の資料、「高齢社会における資産形成・管理」「資料2 厚生労働省提出資料」に使われている図の元データなのでしょう(実支出・消費支出・食料の値より判断)。このExcelデータの内容を以下に示します。一か月にかかる費用(円)です。項目はこちらで編集しました。( )内の数字は世帯人員2.0で割った一人あたりの値です。

世帯人員 2.0
[実支出] 263,718(131,859)
([実支出] = [消費支出] + [非消費支出])

[消費支出]     235,477 (117,738.5)

食料        64,444  (32,222)

(食料内訳)
米          1,944   (972)
パン         2,012  (1,006)
麺類         1,110   (555)
他の穀類        434   (217)
魚介類        7,193  (3,596.5)
肉類         5,815  (2,907.5)
牛乳         1,359   (679.5)
乳製品        1,637   (818.5)
卵           703   (351.5)
生鮮野菜       6,131  (3,065.5)
乾物・海藻       840   (420)
大豆加工品      1,201   (600.5)
他の野菜・海藻加工品 1,258   (629)
果物         3,681  (1,840.5)
油脂          348   (174)
調味料        2,943  (1,471.5)
菓子類        4,380  (2,190)
調理食品       8,097  (4,048.5)
茶類          942   (471)
コーヒー・ココア     695   (347.5)
他の飲料       1,823   (911.5)
酒類         3,102  (1,551)
外食         6,794  (3,397)

魚介類と肉類で一人月およそ6,500円ですか……生鮮野菜も一日100円はどうなんでしょう。多いような。果物、調味料、菓子類、こんなに使うものなのだろうか。

住居        13,656   (6,828)

電気         9,138   (4,569)
ガス         4,183   (2,091.5)
他の光熱       1,644    (822)
上下水道料      4,303   (2,151.5)

家具・家事用品    9,405   (4,702.5)

被服および履物    6,497   (3,248.5)

家具・家事用品と被服および履物はこんなに使うかちょっと疑問です。

保険医療      15,512    (7,756)

交通         3,519    (1,759.5)
自動車等関係費   16,029    (8,014.5)
通信         8,028    (4,014)

教育          15      (7.5)
教養娯楽      25,077    (12,538.5)

諸雑費       19,432    (9,716)
こづかい(使途不明)  6,097    (3,048.5)
交際費       27,388    (13,694)

教育娯楽と交際費で毎月26,000円強、年31.5万円弱。もっと削れるような。あと月一万円近い諸経費って何だろう。

仕送り金       1,111     (555.5)

[非消費支出]    28,240    (14,120)

直接税       11,705     (5,852.5)
社会保険料     16,483     (8,241.5)
他の非消費支出     53      (26.5)

※上記の項目について合計した際の若干の差は端数の影響と思われる。

これらの数値に対する感想は人によりけりなのでしょうが、私は普通よりもややいい感じの暮らしをしている人の実態だと感じました。暮らしが成り立たないレベルの話ではないな、と。これは、いい暮らしをしている人が普通の、即ち一般的な暮らしをしている人よりも少ない場合に支出の費用を平均で求めると普通の暮らしをしている人の支出費用より多い値が出てしまう、ということで説明できると思います。平均で求めた以上報告書に「平均的な姿」と書くのは間違いとはいえないものの、それは一般的な姿とはいえないでしょう。

更にいうなら、これらの支出の費用は年金に加え今まで貯蓄した財産を取り崩して支払っていると考えるべきですが、先の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」等の資料でそれに対応しているのは

勤め先収入    4,232
事業収入     4,045
社会保障給付  191,880
その他収入    9,041

の合計の[実収入]209,198円となってます。そして、この額に貯蓄から毎月約5万円を加算して先の[実支出]263,718と釣り合う、、それが30年続くから2000万円必要という話になっています(「(別紙1) 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」 P21(PDF上では26/56)。

これを、先に引用した報告書のように「しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる。 」(再掲)と書いてしまうと、「赤字」という言葉から「同種の比較の結果このようになり、それが今後は必然的に起こる」と受け止められかねないのではないでしょうか。実支出は年金に貯蓄取り崩しが加わっている可能性がかなり高いのに対して実収入は年金が大半であること、また一般的にはこれほどの支出をしなくても生活できるであろうことから、「この実支出の要素として年金と貯蓄の取り崩しが考えられる。同様の支出を保つためには現状ではこの算定の実収入の大半を占める年金に加え2000万円の貯えを目標としておきたい」のようにもう少し表現を工夫したほうがよかったのではないかと思います。

また、P21ページ目(PDF上では26/56)には「夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ 20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で 1,300 万円~2,000 万円になる。」という記述があり、「不足」という言葉から「それがないとやっていけない」印象がします。この箇所のその後は「この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。」と続くのですが、更にその後が「当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。」と続くので、「この金額は(略)」の箇所が月5万円不足するという決めつけを防ぐ意味合いが薄れてしまっているのは良くないところです。

この話題については、まず一にも二にも健康で文化的な最低限度よりもう少し余裕のあるそこそこの生活をするための金額を算出するのが必須でしょう。例えば、物価と栄養素表と必要な摂取カロリー量を突き合わせて必要な食費を算出したり、あるいは各月の平均気温とそれに対して必要な冷暖房費を算出するとか、そのようにして各分野で必要な支出額を求めるべきでした。実支出を用いる場合は、先に述べたようにそれが平均値である以上一般的な生活を上回る姿を反映している可能性が高いこと、そして「年金 + 貯蓄取り崩し」と「ほぼ年金」の比較をすることによって表現上の誤解を生じかねないことから良い報告書を作成するのは非常に困難なのではないかと、今回の騒動を通じて思いました。

よって、この報告書については高齢者の一般的な実態を反映していない、というかそこそこの生活を上回る水準を絶対的な基準にして以後の算定をしてしまっている点で、受け取ったほうが無責任と言われかねない出来の良くない資料だと考えられます。麻生太郎金融相が受け取りを拒否したのも当然で、よく考えて作り直せと言われても仕方がない代物でしょう。

野党ならびにこの件で野党に肯定的なマスコミの皆様において改めて検討していただきたいのは、上記の約25万の実支出の内容が本当にこれからを考える上で適切な判断材料か、ということです。適切だと判断したからそれを前提に論を進めているこの報告書の受け取り拒否を不適切で「前代未聞の暴挙」とみなし、故に参議院本会議に問責決議案を提出したり(否決)衆議院本会議に不信任決議案を提出したり(否決)したのでしょうが、私はこの件についてはこの実支出の内容を是とするほうが後に傷口になってもおかしくはない話だと考えています。

ただ、今回のこの騒動に関して一つ懸念していることがあります。報道でも話題に出ているのを見かけますが、今年、2019年は年金制度改革で誕生した、年金財政に問題がないか確認するための5年に一度の財政検証が行われる年です。今回の件は確かに金融庁に非があるものの、資料を読み込んでいれば問責決議案や不信任案にいく話ではなかったと思います。金融庁が、それこそ世間と野党とマスコミに忖度して「実際の状況は相当厳しいことを今後のために伝えなくてはいけないのに非難を避けるために楽観的に見積もりをして表現を甘くする」行為にでないか心配です(実際の状況は相当厳しいかどうかは私にはわかりませんが)。それこそそんな行為にでるべきではないというのはたやすいですが、金融庁の方(かた)も過失以上の過度の非難は受けたくないでしょうからそのような思いに至ることもなくはないとみています。それこそこの件で問われているのは(誰に?未来の日本の国民から)マスコミや与野党、官僚を含めた現在の日本国民全体の政治に関する意識なのでしょう。
 
 
付記

なお、2000万円ではなくて「1500万~3000万円必要」とする別の試算が取り沙汰される場合があります。

金融庁「3000万円必要」=老後資金、報告書と別に試算

これは結局採用されなかった数値なのですが、上の記事中では「4月12日に開かれた審議会の作業部会」とあり、この資料は先に出た「金融審議会『市場ワーキング・グループ』21回)議事次第」のサイト「資料3 事務局説明資料(人生100年時代における資産形成)」のP11(PDF上では13/22)に記事と同じ試算がされていて、その枠外の下に「総務省『家計調査(平成29年年報)』における二人以上の世帯(世帯主の年齢が65歳以上)の一カ月間の消費支出より」の文字が見えます。これは先の「表番号 3-12 (高齢者のいる世帯)世帯主の就業状態別 二人以上の世帯」のExcelデータ列W「(うち65歳以上の者がいる世帯)の『世帯主が65歳以上』」がここで使われている図の元データなのでしょう(消費支出の値より判断)。先のExcelデータと同じ表なので、比べてみるのもいいかと思います。ただしこちらは世帯人員が2.0ではなく2.45なので、そこには気をつけてください。
 
 
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