国会議員の仕事 職業としての政治(林芳正 津村啓介 共著・中公新書)感想

興味があって買ったものの読む前は難しそうで文体が固い読み辛そうな本だと思っていたのですが、読んでみると文章も読みやすく内容もわかりやすかったので買った甲斐がありました。政治の、特にその内実がどんなものなのか知りたい方には強くおすすめしたいです。

 
この本は、現在自民党所属の林芳正参議院議員と、同じく現在国民民主党所属の津村啓介衆議院議員(注:本書執筆時は民主党所属)の両氏によって書かれたものです。まず、その目次を以下に記します。
 
 
はじめに (林芳正・津村啓介)

I 国会議員になるまで

 1 「政治家の家系」ではあるけれど (林芳正)
 2 決意と戸惑い (林芳正)

 1 サラリーマン家庭 (津村啓介)
 2 政治家をめざす (津村啓介)
 3 若い力を国会へ (津村啓介)

II 国会議員の仕事と生活

 1 行政の仕組みを知る (林芳正)
 2 大蔵政務次官・参議院副幹事長 (林芳正)
 3 小泉政権 (林芳正)

 1 国会という場 (津村啓介)
 2 国会質問 (津村啓介)
 3 政治とカネ (津村啓介)
 4 東京と地元 (津村啓介)

III 小泉政権から政権交代へ

 1 安倍内閣 (林芳正)
 2 防衛大臣 (林芳正)
 3 二度目の入閣と自民党の下野 (林芳正)

 1 民主党の試練 (津村啓介)
 2 小沢代表のリーダーシップ (津村啓介)
 3 政権交代-二〇〇九年八月三十日 (津村啓介)

IV 政権交代後の一年

 1 政権交代は必然だった (林芳正)
 2 民主党政権の諸問題 (林芳正)
 3 自民党は何をなすべきか (林芳正)

 1 政治主導の最前線 (津村啓介)
 2 国家戦略室の理想と現実 (津村啓介)
 3 民主党の経済財政戦記 (津村啓介)
 4 科学・技術政策と日本の未来 (津村啓介)

V 「職業としての政治」を語ろう 対談 林芳正×津村啓介

あとがきにかえて (津村啓介)
 
 
上記のように、各テーマごとに林氏、津村氏がそれぞれ執筆し、最後の章で両氏が対談する構成になっています。

本書には二つポイントがあります。一つ目は、両名の相違点と共通点については「はじめに」に書いているのですが、相違点は「参議院議員と衆議院議員」「自民党と民主党」「林氏は津村氏の十歳年上」「林氏は近親者に政治家がいたが津村氏にはいない」ことであり、また共通点は「(執筆時に)両氏とも選挙を三度経験している」「政治家以外の職業経験があり、海外から日本を見る機会を得ている」ことで、この対比が上手いバランスで好企画だと思いました。

二つ目は、この本は2011年3月25日初版発行なのですが「あとがきにかえて」の日付は2011年2月で、つまり東日本大震災(2011年3月11日)の少し前に書かれているわけです。また、目次の通りに小泉政権時と2009年9月からの民主党政権後の一年について重点が置かれています。なお、民主党政権は2012年末まで続くので、本書執筆時は民主党が与党で自民党が野党です。よって、東日本大震災前までの小泉政権ならびに民主党政権の事情や評価を知る、あるいは確認する上で、それらの全てを語っているわけではないのですが、それでも丁度いい位置にある本だと思います。

この本を読んで一番考えなければならないと思ったのは、どうすれば効率良く国会議員を育てることができるのだろうか、ということです。林氏、津村氏ともに国会議員になる前から非常によく勉強しており、議員になるべくしてなった存在だと思っています。しかし、その一方で政治に関係ない職業の人間を、地元の議員だった親や親類の知名度、あるいは芸能などの活動で得た全国的な知名度をあてにして候補者に推薦する政党がいる。あるいは、それらの知名度を考慮して出馬する立候補者がいる。そして有権者もつられてそのような立候補者に票を入れる。これはものすごく非効率的なことをやっているのではないか。また、津村氏は日銀出身だが、それでも一年半ブランクがあれば難しい状況になる(P110)。あるいは、林氏も防衛大臣になったときには徹底的に勉強している(P143)。両氏とも過去のの勉強の蓄積があったから各々の職を勤め上げたのだと思いますが、それでももう少しいい方法があるような気がします。

将来の大臣候補を如何に育てるか。例えば外務大臣を目指すなら大学卒業後外務省に入省して実績を上げて政治家に転職するか、あるいは外務大臣経験者の政治家の秘書になってその後継を目指し数期当選してその後、ということになるのでしょうか。後者のほうが政治家の仕事を知り、かつ知名度を上げ選挙区との結びつきを強める上でいいような気がします。ただ、これは志望者側の話なので、政党のほうではどうしようかというと、各省庁や関連していそうな企業にアンテナを張ってスカウトするだけなのは消極的なので、政治塾とかつくって将来の大臣レベルまで射程に入れて養成する、あるいは全議員の秘書に希望する大臣のアンケートをとって先の政治塾なり勉強会にも通わせるようにする……うーん、書いてみてもうどこかでやっている気もしないではないのですが、今のところ考えついたのはこんなところです。

以下、気になった箇所をいくつか。「永田町というところは、実年齢よりも『ここで何年議員をやっているのか』が優先される世界」(P26)というのは、先の話で何歳まで省庁勤めで何歳から出馬、とか考えるのなら覚えておいたほうがいい話でしょう。P62の政党助成金の話は、当初は批判があったのを覚えていますが、こうしてみると議員を希望する者に門戸を広げた役割をしていて、これはもっと広く知られていい話だと思いました。

また、「国会議員になると、必ず何かの常任委員会に属することになる。」(P73)や「参議院の場合、一つの委員会に属したら、三年やるのが通例」(P75)のような一種の議院のシステム的な面も興味があるところです。そのような知識がひとまとめになっている本とかあったらぜひ目を通しておきたいです。

P95からの林氏の小泉政権批判も、そういう観点からみるのなら同意できるものでした。P99からの法律の生成過程や議員、委員会の内情については、議員の能力を超えてつくらなければならない法律があるのなら、これからはむしろ議員を増やしたほうがいいのではないか、とすら思えてきます。もっともそのためには議員が適切に仕事をしているか有権者もそれ相応の情報を得なければならず、週に何時間そのための時間をとれるか、想像し辛いものがあります。世の中の豊かさや快適さ、つまりある意味複雑さが政策決定に関する情報を増大させ、それが議員と有権者にのしかかってくる、そんなイメージが湧いてきます。

P106の年金国会の際に起きた理不尽な話も覚えておきたいところです。その後、指示した国体は責任をとったのでしょうか。

P146の「大臣から課長クラスまでが同じ方向を向き、胸襟を開いて語り合える関係が必要」も大臣とその担当省庁の運営が上手くいっているか、外部から判断するのは限界があるのでしょうが、目安として覚えておきたいです。P147の(閣議は)「撮影がすむと、丸テーブルが置かれた隣室に移動する」も、ちょっと意表を突かれました。P200からのマニフェストをはじめとした民主党批判もあの頃を思い出す上でいい資料になります。

P214「あの時、日本人は頑張って国難を乗り越えた」とありますが、この後に東日本大震災が来て、更にこれは「難」と「益」のどちらが多いか判断つきませんが、2020年の東京オリンピックが決まって、当初の予算が大幅に増えたりして大変なことになっています。あれほど騒がれた新国立競技場は最近その話題を聞きませんが期日までに完成するのか不安です。世の中悪いことばかりではないことはわかっているのですが、それでも容赦なく追い打ちをかける状況というのもあるものだとつくづく思います。

P218の津村氏の政務官時代のエピソードも、政務三役(大臣・副大臣・政務官)が官僚組織どう付き合い、運営していくべきか考えるヒントになると思います。また、これも人材不足によるものなのか、一人の人間に多く兼職させるのは取り組む時間が限られてくる問題が浮かび上がってきます。それとは別に考えたことがあって、ある人物の費用、時間、能力、人材を配分してミッションを達成するのは、ゲームというかシミュレーターとして作製できないだろうか、ということです。そのようなものをつくる目的は政治家の活動の一部でも知ってもらうためで、そんなのがあったらいいなあと思っています。

P267の選挙の話は、どうすればいいのか難しいです。中選挙区制に戻すと政権交代の可能性が低くなり小選挙区制ならではの緊張感が失われて、今でさえ民主党が立憲民主党と国民民主党に分裂して政権交代を狙える党がないのに更に万年与党と万年野党しか日本には存在しない気がするので抵抗があります。行き着く先は政治腐敗でしょう。それにしても、アメリカ。「政治や政党のことを勉強してから、一回だけは『宗旨替え』が許される。」(P268)一回だけしか許されないだなんて。厳しい。「実際、任期が短く選挙が多い状態のまま小選挙区制度を導入した結果、ここ二十年は総理大臣がコロコロ代わってしまっています。」(P280)という表現も、今は第二次安倍政権が2012年の末からなので約6年半。当時予想もつかなかったことが次々起こって、本当に未来というのはわからないものです。

総じて、政治家を志したいというか、それ以前に政治家という職業が実際にはどんなことをしているのか知りたい方は是非とも読んでいただきたいです。本書を読むことで、少しは見えてくるものがあるのではないかと思います。
 
 
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今回は日本の政治の本の特集です。一番右は「体験ルポ 国会議員に立候補する」です。

真ん中の本は「政権交代 – 民主党政権とは何であったのか」です。