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  • 日米同盟のリアリズム(小川和久著・文春新書) 感想

    北朝鮮。中国。日本はいい国だと思いますが、なんでよりによって軍事的に厄介な国と隣り合わせなんだろう……もっとも、案外世界のどこでも似たような悩みを抱えているかもしれませんが……そして、これらを念頭においた場合、日本の国防はどうすればいいのか、というかそもそもどう考えることから始めればいいのだろう、と思って手に取りました。

     
    私は、先に述べたお菓子と同様に軍事についても人に言えるほどの知見を持ち合わせているわけではありません。なので、基本的に批判はできないのですが、大事な論点についてはこうして本の紹介をしつつ少しずつ知識を積み重ねることから始めようと思っています。

    本書はまず、日米同盟解消(=自主防衛)の可能性を「コストを試算! 日米同盟解体 ―国を守るのに、いくらかかるのか―」(武田 康裕・武藤 功著、毎日新聞社、2012年)から引用する形で検討しています。その結果、今より毎年22兆円から24兆円も余分に費用がかかる、というのが結論です。なお、自主防衛と核武装についてはP.44以降でも述べていて、いずれも非常に困難な印象を受けました。

    なので、日本としてはアメリカと同盟を組むしかない。しかし、何にも増して重要なのは、「アメリカも日本と組むしかない」ということです。なぜなら、日米同盟が解消されたら「米国は『地球の半分』の範囲で軍事力を支える能力の80%を喪失」(P.22)して「米国は世界のリーダーの座から滑り落ちる可能性が高い」(P.22)からで、アメリカの政治家と高官はそのことを認識しているだろうから、私としては「日本無しならアメリカファースト無し」とまで言い切っていいとすら思えてきました。ええと、“NO JAPAN, NO AMERICA FIRST.”? 私たち日本人もそのことを自覚して、変にオクテになったりせず「我々は良き友人だよな」と言いながらアメリカと向き合っていっていいのではないでしょうか。

    とはいえ。仮にアメリカが世界のリーダーでなくなったら、それがどうアメリカにとって不利にはたらくのか、具体的に考えると少し想像し難い面もあります。今、離脱したTPPに色目を使っていたりしているのですが、貿易協定で不利な条件を飲まされたり、反米的になりかねない軍事同盟を組まれて潜在的なリスクとなったりするとか、そんな状況があちこちで起こるようになる感じなのでしょうか。もしかしたら、渡航や外国への送金が制限されるとか。そして、それらをアメリカの政治家や高官、国民がどこまで考えられるものなのか。考えるのは難しいとしか言いようがないです。

    アメリカは日本を手放さない、というのが著者の見方で、その立証のために様々な行為は証言を取り上げていますが、それに反する行為や証言はないのか、というのが気になったところです。あるいは、将来本当に日本よりも中国やロシアに傾倒することはないのか、とか……

    また、映画「スノーデン」の監督オリバー・ストーンのインタビューが掲載されていて、「『(略)スノーデン氏は(略)日本のインフラに悪意のあるソフトウェアを仕込んだ、(以下略)』」(P.40)とあり、著者はスタックスネットではないかと推測しているのですが、日本中のインフラに大規模な影響を及ぼすソフトウェアを仕込むことがそもそも可能なのか、そこは気になりました。

    次に、北朝鮮について述べています。日本にある国連軍基地。国連軍後方司令部。朝鮮国連軍。耳慣れない言葉ですが、いずれもこの問題については重要な事柄です。それが有事にどう作用するのか。外務省の朝鮮国連軍地位協定のページにまとめて書いてあるのでこの際一通り読んでおきましょう。社会の授業ではこういうのやっていないんだろうなあ、国防とか。そして、北朝鮮の軍事力は?ミサイルや金正恩斬首作戦、米朝の外交についても詳しく語っています。これについては明確な言葉で語られることが少ない以上推測せざるを得ない部分が多々あるので、本当にそこまでの意味があるのかただただ難しいものだな、と思います。P.139以降の北朝鮮の国家建設のモデルについても、確かに私は北朝鮮についてそのような考え方を抱いたことはなかったので興味深かったです。

    最後に、中国について記されています。ここも推測に頼らざるを得ないところなので本当にそうなのかと改めて問われると自信がもてない箇所です。「中国の軍事行動に大騒ぎするだけでは、中国の思う壺にはまっている面があるのだ。」(P.172)と書かれているのですが、私はそうとも限らないと思いました。今の共産党政権が弱体化して中国が民主的国家になったら、もしかしたら日本に対してもっと攻撃的になるかもしれない。最近反日デモのニュースは聞いていないのですが以前はすごかったことを覚えています。

    また、中国の艦船が尖閣諸島あたりの海域に近づくたびに「中国はやっぱり怖い、改憲して戦争のできる国家にならないと生活が危ない! #九条改憲」て感じのツイートが溢れて九条改憲がツイートにトレンドワード入りするようになれば、中国政府としても日本の世論の動向はチェックしているだろうから、日本に対する中国の見方というか対応も少しは変わってくるように思えるのですが、どうでしょう。そんなことを考えました。

    そして領海侵犯や防空識別圏、尖閣問題に対する著者の見方が語られています。尖閣問題については「禁反言の法理(エストッペルの法則)」というこれまた耳慣れない言葉についての説明があり、その法理の先にどのような帰結を目指しているのかが記されています。ここで文中に出て来た西恭之(にし たかゆき)氏がNewyork Timesに寄稿した論文のリンクを貼っておきます。
    英文 The Diaoyu/Senkaku Islands: A Japanese Scholar Responds
    中国語 中国的钓鱼岛诉求自相矛盾
    (静岡県立大学 グローバル地域センター)
    日本語 中国は国際法的にも尖閣諸島を放棄している

    そして……南シナ海、九段線、南沙諸島(スプラトリー諸島)……これらの軍事戦略的意義と「航行の自由作戦」のような情勢、それにつながる「三戦」(注:もちろん空手の型の話ではない)についての話があります。世界に尽くして、それをきちんと主張した国がそれ相応の発言力を得るのは当然の話であり、「(略)日本版の三戦でやり返すほどの国家に成長することが求められているのは言うまでもない。」(P.210)ことをより一層行うのは色々大変だよなあ、と思いました。例えば、軍事的貢献が重要な意味合いを持つなら九条改憲が視野に入ってくるわけで一筋縄ではいかないことだろうな、と。とりあえず今は東京オリンピックを無事にこなすことが大切な課題なのでしょう。こうしてみると、なんかオリンピックって形態は違えど参勤交代に近いものを感じます。

    あと思いついたのは移民で、情勢によっては人道的理由で国際的圧力がかけられて今以上に受け入れざるをえない予感がします。予感にすぎませんが。ただ、うまくいけば……つまり、国民にあまり負担(特に心理的なもの)をあまりかけることなく、かつ移民してきた方々(特に二世以降)が母国より日本っぽいもの?(漠然としか考えてないのでここではこの表現にしておきます)に心を寄せて日本の国益を重視するようになれば、というかそのように国外の人々を日本社会により多く取り入れるノウハウが確立できれば、ある程度少子化対策になるだけではなくそれによって調和を保ったまま活気が増すことによって国際的に優位にたつとともによりよい暮らしが保てると思います。

    言い直すなら、移民してきた方々の価値観に日本っぽいものが占めるほど、その方々が接する国民の満足度を下げない確率が大きくなるような、そんなイメージで考えています。付き合いやすい移民の方々ととっつきにくい日本国民とどっちと付き合いたいか想像すると、人格を重視するなら価値観に日本っぽいものが占めるのは必須ではないのですが、価値観の異なる相手と付き合うことで生じる価値観の押し付け合いを避けたい心理があることは否定できないと思います。故に、価値観に日本っぽいものが占めるのと付き合いやすさはあくまでも確率の問題にすぎない、という言い方のほうがいいのかな、と。

    ここで唐突に小中学生に同学年の外国人との交流を最低半年に一回は必須の授業として行うことを考えてみたり。

    あと本書について述べるなら、2017年7月20日第1刷の本ですので、その後の情勢、特に北朝鮮のミサイル実験について著者はどのような見解を示しているのか気になりました。また、北朝鮮と中国の潜水艦や中国の空母については、今はそんなに恐れなくてもいいのかもしれないけど5年後、10年後はどうなっているかわからない、という意味で騒ぎ過ぎはよくないが警戒は怠らないようにしないといけないと考えています。

    日米同盟とそれに関わる周辺国との軍事的問題の論点は一通り書いてあったので買った甲斐がありました。更にこの問題について考えなければならないのであれば、この本の知識に継ぎ足すように他の本を読んでいけばいいと思います。

    あと、著者に関することで述べておきたいことがあります。沖縄の普天間の空港問題について、「キャンプ・ハンセンへの移設案、具体的にはハンセンの演習場内ではなく、海兵隊の建物の地下にある旧チム飛行場のあと」に飛行場を建設する旨を提案しているのですが、どうなんでしょう。ニュース番組とかあまり積極的には見ていないのですが、あまり聞いたことのない案だと思いました。果たしてこの案は可か否か。もっと多くの方に取り上げて、検討していただきたい話だと思います。
     
     
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    今回はこの曲!


    「疾風(はやて)」です。
     

     

    以下は軍事関連本の特集です。

    「陸上自衛隊の素顔」は興味深い内容でしたので機会があればブログで取り上げます。