サブカルで食う(大槻ケンヂ著・白夜書房) 感想

●はじめに

この本の正式名称は「サブカルで食う 就職せず好きなことだけやって生きていく方法」です。記事のタイトルでは一部省きましたが、念のため一通り書いておきます。今回の記事は途中に、特に中島らも関連の広告が多いですが、最後までよろしくお願いします。

 
●私にとって大槻ケンヂとは

昔むかし、おおよそ1980年代の中盤から1990年代の初めぐらいに、この国にバンドブームというのがありました。それまでヤングが聴いていた音楽(主にアイドル歌謡)とは違うサウンドが沢山生まれて沢山放送されるようになって盛り上がり、沢山のヤングがそのようなサウンドの音楽を聴くようになりました。先にバンドブームと書きましたが、数多のバンドのみならず数多のソロアーティストが、カンブリア爆発のようにわんさかと増えました。

バンドにしろアーティストにしろ、それまでのものと違っていて新鮮に感じられたから人々が飛びついた一面があります。少し感触が違っていたものがあれば、かなり変わっていたものもありました(例:たま(Wikipedia)・代表曲「さよなら人類」)。

そんなさなか、世に現れたバンドの一つが、大槻ケンヂ(Wikipedia)がボーカルを務める筋肉少女帯(Wikipedia)(略称は筋少)でした。筋肉の要素も少女の要素も見当たらない、バンド名が体を現わしていない上に「隊」ではなく「帯」であり、異様な世界に片足を突っ込んだような世界観の歌が多かったのですが、当時は少し変わっているのがある意味普通だったので、まあ私はすんなり受け入れていました。

後に「大槻ケンヂのオールナイトニッポン」(Wikipedia)というニッポン放送の深夜放送が始まり、それも普通とは少し話題の毛色が違うような番組でしたが楽しく聴いていました。

 
●面白い読み物として
 
語り口が面白い、という理由で所持を続けている本があります。別役実著「けものづくし」(平凡社ライブラリー)然り、中山康樹著「超ジャズ入門」(集英社新書)然り、西原理恵子「生きる悪知恵」「家族の悪知恵」(文春新書)然り、中島らも「中島らもの明るい悩み相談室」(朝日文芸文庫、特に前半がおすすめ)然りです。以前紹介した蛭子能収著「ひとりぼっちを笑うな」もこの要素があります。本書もまず読んでいてただ楽しめる、という意味合いでおすすめします。

 
●実践的知識も

タイトルに「食う」と銘打っているだけあって、結構役に立ちそうなことが書かれています。中でも感心したのは「親に反対されそうなことを伝える時」のことで、確かにこれは機転が利かないと思いつかないことだと思いました。他にも小説やエッセイの書き方、作詞の仕方がいかにも方法を考えて実践していて使える感じがします。他にも、いかにして表現のための素地をつくるか、心得としてはどうあるべきか、あるいは何をすべきでないか、更に芸能事務所とはどのような契約を結ぶべきか、ライブではどう振る舞えばいいのか、そして……心が折れたらどうすればいいのか、そこまで書いています。この中のいくつかは、表現者ではなく会社員やっていて普通に生活している人でも応用が利きそうです。例えば、カラオケではどう振る舞えばいいのか、朝礼でみんなの前で話す前には……そんなことを想像しながら読みました。
 
 
●大槻ケンヂの一代記として

さて、この本がどのように書かれているかといいますと、著者大槻ケンヂの過去から現代に至るまでの順に記述されているのですね。学生の頃はこうだっだ、インディーズのとき、メジャーデビューのときはこうだった、人気が停滞したとき、筋少が再結成したときは……その中から、創作に、表現のために、芸能の世界で生きるには、といった経験から身に着けたノウハウを書き連ねています。その中には、大抵の人が気になるお金のシビアな話も芸能界の裏側の話も出てきます。ちょい暴露本ぽい?みたいな感じでしょうか。更に、必然的にインターネットの無い時代はこうだった、という一種の時代物としても読み解くこともできます。それらのような見方でも楽しめる本です。
また、たいてい周りの見えない自分語りになりそうなのところを、赤裸々かつ客観的に、この二つを両立した上で語っているのはかなり好感が持てました。
 
 
●終わりに

この本の正式名称は「サブカルで食う 就職せず好きなことだけやって生きていく方法」です。が。読み終えた今となっては「(略) 就職せず好きなことだけやって生きてきた方法」のほうがしっくりくるのかな、と思いました。また、自分のことならある程度は書けるはずなので、身の回りのことであれ、昔話であれ、そこから表現を始めるのもいいと思いました。本書は北村ヂンによる注釈も充実しており、あまり耳にすることのないサブカルの文化的知識も得られる、という点でもお得といえます。あと、最後のライムスターの宇多丸との熱い対談も見ものです。
 
 
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今回は心に残る曲をどうぞ。


「水の鏡β」歌は出宅ナイさんです。
 

 

それでは大槻ケンヂ・筋肉少女帯関連アイテムの特集です。

「空手バカボン」(Wikipedia)は大槻ケンヂ、内田雄一郎(筋肉少女帯のベーシスト)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(Wikipedia)(本書でも触れられている、大槻ケンヂに多大な影響を与えた人物)によるユニットです。