スパルタとアテネ―古典古代のポリス社会(太田秀通著・岩波新書)感想

おそらく、古代ギリシアのことに興味があるのなら最近出た本の中から選んで読んだ方がいいと思います。というのも、この本の初版は1970年、今から38年前であり、線文字B類の解読が大きな話題となっているぐらいなので、それならそれ以降の研究が反映された本のほうが真実に近づいていると考えられるからです。ただ、文章が平易で読みやすいこと、覚えておきたい考察が沢山あったことから結構この本を気に入ってます。また、本書は値段的にも手に入りやすいはずですので、その意味でも機会があればご一読をお勧めします。

「ギリシアの美術」は同時に買いました。この際ですので「ヨーロッパ思想入門」もお勧めしておきます。ギリシア哲学にも触れていて、なかなか読み応えがありました。

 
それでは本書を紹介します。「I 古典古代とはどんな時代か」では古典古代という言葉の持つ意味の解説と「古代ギリシア・ローマ」の概念の推奨、当時の国家やポリスの形態をおおまかに説明しています。本書によると「ポリスの国名は『アテネ人』『ラケダイモン人』『コリント人』『テーベ人』『アルゴス人』等々」(P13)とのことで、「アテネ人とは、アテネの市民団を意味し、」(同)ていた、とのことです。また、市民と土地の関係、自由やアレテー(「良さ」)にまつわる価値観、政治論について語られてます。

「II 東地中海世界とホメロスの世界」で先に述べた線文字B類の話題が出てきます。そして、その解読の成果として当時のギリシアの社会をどう考えるべきか、について語られてます。また、土地と天候が農業に影響を与え、その農業を維持するためにどのような社会を形成したか、特に土地の所有のとの関わりについて詳しく分析しています。

「III 貴族政ポリスとその危機」では身分、すなわち奴隷だとか農民、市民の実態について説明しています。農民の説明にヘシオドスの詩が引用されているのが印象的です。そして貴族政での社会の発展、立法家や僭主の登場、文化や学問の発展についてかなり語っています。コロフォンのクセノファネスの「ライオンが人間のように手をもっておればライオンと同じような神を描くだろうし、」(P75)という考え方が好きです。また、商工業が発展して貨幣を使うようになった結果、現実と本質を区別できる抽象能力が発達して哲学が発達した、というのもいい発想だと思います。(ただし、他のところではどうだったのか、という疑問もありますが。)

「IV スパルタ―その国制の特徴―」では、スパルタの特異性を書き綴ってます。「敵に対する巧妙な攻撃と狡猾さを養うために盗みを奨励され、」(P88)だけでもインパクトが強い上に、その文の後に続くのは「また核心に迫るような短い言葉を吐くことを教えられた。」(同)で、スパルタ人がツイッターを始めたらどうなるのだろう、とか思ってしまいます。そして、そんなスパルタがどのようにして成立し、そしてどんな行く末をたどったのか、について書かれています。

「V アテネ―その国制と政治過程―」ではアテネの政治体制、社会、歴史について述べています。殺人が「国家に対する犯罪」になるまでの過程(P106)が印象に残ります。また、書物「アテネ人の国制」を元に立法家ドラコンについて、そしてその後アテネを改革したソロンやクレイステネスについて多く語っています。鎌倉時代の徳政令を思わせる負債の帳消しがこの時代にもあったなんて驚きでした(P119)。

「IV 戦争と平和のポリス社会」で、アテネとスパルタがともに語られます。政治、身分制度、土地所有の差、そして大国ペルシアとの戦史。その後の、アテネ中心でありながらポリスの概念の枷を超えられないが故にアテネの統一とはなりえないギリシアの歴史。そしてアテネの民主政についてはペリクレスの見事な演説を引き合いに出して説明しています。しかし、その後アテネは盛者必衰としかいいようのない事態に陥ります。章の最後にアテネの国家財政について触れています。

「IIV ポリス市民の意識構造」は最終章で、祭典、アポロン、ディオニュソス、悲劇、喜劇がキーワードです。特に悲劇と喜劇については、それらがもつ社会的意味合いも含めて詳しく解説してます。また、ギリシア哲学についてはソクラテスの思想と当時のギリシア社会との関わり合いについてまとめています。そして最後に、このギリシア社会について引っ掛かりを感じる要素、奴隷制について論じています。

一番読んでよかったと思えるのは最終章で、ギリシアの文化と思想について感心することが多かったです。でも、それらを生みだしたのはどのような社会であったか、という視点も重要で、それは今後もできるだけ意識しておきたいと思っています。

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そして我々はどこへ向かうのか。


曲は「マリオ」歌は冷声ゼロさんです。
 

 

今回のアフィリエイトはギリシア特集です。

最後の本は、むかーし読んだことがあるような……