聖書の奇跡 その謎をさぐる(金子史朗著・講談社現代新書) 感想

旧約聖書に記載された超常的な記述について科学的な解釈を試みた本です。言い換えるなら、科学的な解釈が可能な箇所について取り上げた本といったほうが正確かもしれません。昭和55年(1980年)7月20日初版発行。今からおおよそ38年ほど前の本です。今ではこの方面の知見もかなり溜まってきていると思います。

 
エブラ王国。ダマスカスの北、地中海とユーフラテス川に挟まれる位置にあった国で、本書によれば紀元前2400年頃に王国繁栄の基礎ができていて、エブラ語の完成度からすると紀元前2800年以前には成立していたと推測されています。その国の公文書ともいえる楔形文字粘土板が約1万6630点も発見された……NHKテキストViewの記事「『旧約聖書』はいつ、どのように編纂されたのか」によると、旧約聖書のまとまりのあるものが成立したのは前5世紀から前4世紀頃とのことです。

そして、それよりもはるか昔の、その王国の粘土板に「創世記」に出てくる都市の名前が刻まれていました。アデマ、ゼポイム、ベラ、そして……ソドム、ゴモラ。ソドムとゴモラは聖書以外に知られていなかった名前で想像の産物と考えられていましたが、この両市は紀元前2250年以前には実在していたとのこと。となると、旧約聖書とエブラ王国の関係は?共通点は?という話が少し載ってます。

次に、聖書の時代の気候についての話があります。本書によると、紀元前5000年から同2350年の間は西アジア、エジプト、北アフリカは高温多湿だったとのことです。現代の研究でもその説は変わってないのか気になるところではあります。しかし紀元前2350年から同500年の間は極乾期(ハイパーアリド)に入り、気候が乾燥していったのに加え、放牧ほかの人為的な要因により豊穣な大地が不毛の荒野になってしまったのではないか……と述べられています。私はこの点について現在の詳しい状況は知らないのですが、もしかしたら人為的な大地の回復も可能ではないのかという気がします。

その後、先に出てきたソドムとゴモラの謎に迫ります。実在していたのなら、どこにあったのか。途中、その町から逃げるときに振り返ったばっかりに塩の柱になってしまったロトの妻の話題が出て来ます。私はイザナギもオルフェウスも振り返ったばっかりに痛い目にあったことが思い起こされました。また、ロトの妻の話については、現地を知ると知らぬとでは大違いな話でした。ロトが災厄を逃れてついた町、ゾアルの話題も出てきます。どこにあったのか。本書が書かれた当時の、ですが「現在の見解」(P.67)としての推測が書かれています。

そして、なぜ……というより「何で」ソドムとゴモラは滅びたのか。これも、本書の見解は推測以上のものではないのですが、現地を知っているのと知らないのとでは印象がかなり変わってくる話だと思いました。そして、ヨーロッパやアメリカの人たちも、そんなに本書に書かれている話は知らないのだろうな、と考えています。

その他、ノアの洪水、モーセの十大奇跡、紅海の奇跡について触れています。前の二つについては可能性に触れただけと言っていいでしょう。後の一つについてはP.112に「たぶんここでいう『紅海』というのは、沼沢地帯に生えている『葦(あし)の海』つまり Reed Sea が誤って、Red Sea と訳されたのではあるまいか。」との話で、ヘブライ語やアラム語、もしかしたらラテン語まで範疇に入れて、それらの言語でも同様に通じる議論ならいいのかもしれませんが不安です。

また、本書によるとモーセの十大奇跡と紅海の奇跡は紀元前1400年代の初め頃か、あるいはその100年以上あとのラメセス二世の在位の期間に起こったのではないか、ということですが、本書でのキーパーソンならぬキー火山といえるサントリーニ火山はその時期に噴火した記録が無い(紀元前1613±7年の次が紀元前197年)ので注意が必要です。

ここから地震の話が多くなります。民数記16章31~35、47~50、20章1~11、13、エリコの城壁が崩れ落ちた話が地震と絡めて語られます。城壁という言葉からそれが頑丈なものであると思いがちです。しかし、それは案外もろいものだったのではないか、という話もあります。

最後に、地質調査の話が出てきます。長い年月をかけて造山運動がここで起こっていたことがわかったのですが、詩篇104篇5~8はその造山運動を、ゼカリヤ書14章4~5、アモス書8章9~10、詩篇114篇3~8、同39篇14~15は地震とともに地盤、大地の動きをも語っているのではないか、という話です。少し後のP.174の出エジプト記19章18の解説もそのニュアンスを匂わしています。私は詩篇39篇14~15については、当時の人々にとって「地の深い所」は民俗学的な意味は無いのか、気になりました。

全体を通して言うなら、今もそうかもしれませんが資料が少ない時代の話なので推測が多くなるのは仕方がない面があると思います。更にいうなら、本書カバーの記述によると著者は東京文理科大学(現・筑波大学)理学部地学科を卒業した構造地形学専攻の理学博士であるので、地震や地盤の話に重点が置かれるのはある意味当然ともいえるでしょう。ただ、その箇所の語り口に少々強引なものを感じたのも確かです。繰り返しになりますが本書は1980年に出版された本であり、現在の知見ではないことを考慮して読まれることをお勧めします。
 
 
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今回は「天国と地獄」序曲のおなじみの部分です。
 

 

以下、聖書に関連したアイテムです。

※岡村靖幸のアルバム「靖幸」の5曲目は「聖書(バイブル)」。
聖書考古学はいつか読もうと思います。