神話学とは何か(吉田敦彦・松村一男著・有斐閣新書)感想

●有斐閣新書(ゆうひかくしんしょ)について

新書といえば本屋や古本屋の棚に同じ出版社の新書のいろいろなタイトルがずらずらずらっと並んでいるのが普通というかよく見かけるのですが、有斐閣新書は滅多に見かけないので少し調べてみました。出版社のサイトで確認できるのは在庫ありで25タイトル、全書籍だと477タイトルです。最後に出版したのが2016年11月。もう新書戦線からは撤退したということなのか、先行きが心配です。

 
●本書の内容と感想

初版が1987年。まず、内容と担当著者は以下の通りです。

第1章 神話とは何か(松村一男)
第2章 神話学の現在(松村一男)
第3章 日本神話の解明(吉田敦彦)
第4章 神話研究の歩み(松村一男)

第1章については現在の見解と比較してみたいところです。なにせ30年以上前の書なので、これを今そのまま鵜呑みにはできないというか、現時点では比較による差分にこそ意味があるところです。

第2章については、深層心理学(ユング)、民族学(イェンゼン)、比較神話学(デュメジル)、構造人類学(レヴィ-ストロース)が主に取り上げられています。それこそ第4章で神話学史が語られているのですが、この章を読むことも今ではある意味神話学史なのだろうなと思いました。深層心理学なんてまだ有効なのでしょうか。ただ、他の神話に関する本を読んでいるとこの章に挙げられている人名(上記カッコ内の4人以外も述べられています)が説明無しに出てくることもあるようなので、そのときそれぞれの立ち位置を確認するのにはいいと思います。

あと、この章について述べるなら三区分イデオロギーを唱えたのはデュメジルとのことです。「神聖性・主権性に関わる第一機能」「戦闘性・力強さに関わる第二機能」「生産性・豊穣性・平和などに関わる第三機能」、これらによって世界は構成されている、とインド・ヨーロッパ語族(印欧語族)では捉えていたのではないかという話で、覚えておこうかと思います。なお、前に菊池良生著の「傭兵の二千年史」を読んだのですが、そのP38でも中世の詩人、フライダンクの歌からこのことに触れており、同書によると「この考え方は十世紀末頃にはかなり広まっていたと言われている。」ということで、ついでながらここに記しておきます。

第3章では、「ハイヌウェレ神話によるつくって壊す土偶の解釈」とか「三区分イデオロギー、構造人類学、元型説(ユング)の日本神話への適用」が述べられています。ユングに関連して河合隼雄の中空構造の説明が多いのが特徴でしょうか。

第4章では、第2章で「現在」(1980年代後半)の神話学が述べられていたのに対して、古代ギリシアからフロイトまでの神話に対する考え方が記述されています。第2章と同じ意味で、各学者の考え方を一通り把握するためにはいいと思います。神話学の経緯を知る上でわかりやすく、読み応えがある章でした。

最後に。例えば、数学や物理や化学のように再現性に重点が置かれる分野をきちんと学ぶのに必要なのは現時点での見解を載せたテキストだけで十分なのでしょう。しかし、人文に関連した学問は再現性というより納得できる解釈、言い換えれば思想も考慮されるので、その学問での説明に「誰それがこう言った」という言葉を使う以上は、その誰それがどのような考えの上で言ったのかを確認するためにもその学問の歴史にも焦点が当てられる。本書を読んで、そんなことを考えました。
 
 
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ここで落ち着いた一曲をどうぞ


「月の夜に静かに」 歌は朱音イナリさんです。
 

 

今回は有斐閣新書(在庫あり)で気になる本の特集です。そしていつかは読みたい右端の本(本書著者、松村一男氏推薦文!)。