創られた「日本の心」神話(輪島祐介著・光文社新書) 感想 演歌はどこまで日本の心か

演歌議連こと演歌・歌謡曲を応援する国会議員の会。2016年に以下の記事が出ています。

日本の伝統文化の演歌を絶やすな! 超党派「演歌議連」発足へ(産経ニュース)

演歌・歌謡曲の発展を 超党派の国会議員の会設立(しんぶん赤旗)

これらの記事を見たときこれからどうなるのか、もしかしたら演歌歌手に相当な便宜、金銭的支援が図られることになるのかとやきもきしていたのですが、現在のところ何も起きていないようです。特定の文化、即ちそれに携わる人物に国家が援助すること自体は筋が通っていれば反対しないのですが、それでもまず本当に民間からお金を集める努力をしたのか、その検証が先にされるべき話です。クールジャパンとか今どうなっているんだろう。

ただ、演歌は日本の心であるという主張に対しては最低限の知識は備えておいたほうがいいだろうと本書を購入しました。初版2010年、本文350ページで中身も読み応えがあっていい本でした。

 
結論からいうと、「じゃあ昭和20年代の演歌を歌ってみてくれませんか。それ以前の時代でも構いませんので、どうぞ」と言えば解決できそうなことがわかりました。私なりの解釈です。その理由は本書をご覧いただければ自ずとわかるでしょう。

なお、明治・大正期の社会批判の演説が演歌の発祥という説があり、私もおぼろげながら耳にしたことがあるのですが、本書では「レコード歌謡とは別の実践の論理を持つ大衆的な音楽(芸能)であった」(P62)という見解をとっています。

その他、目に付いた箇所を取り上げていきます。

美空ひばりについては「はじめに」で活動経歴が演歌だけではないことを前提に日本人の意識の変遷と演歌の音楽的な要素を探るための例として取り上げています(第四章でも考察されています)。そして、これは同時に本書で「演歌といえば」で始まる諸概念の考察を行うことを意味しています。

そして、P45で以下のように述べています。

「言葉自体はレコード歌謡の第二期に現れたものだが、その音楽的特徴は第一期のものである、しかもその語源はレコード歌謡以前に遡る、という点が、『演歌』のレコード歌謡史における位置付けを複雑にし、また歌謡史の見取り図を描きにくくしているのです。」

確かにそういうことであれば演歌が日本の(相当昔からの)伝統だと思われても仕方がない一面もあり、そのような思い込みや、それに関連した不利益を防ぐためにも学問や研究はどのような分野であれおろそかにできないことを実感しました。

P47のレコード大賞の「ポップス・ロック部門」と「歌謡曲・演歌部門」の分割には少し思うところがあって、バンドブームの影響でそれ以外の音楽の売り上げが減少したため旧来の業界が延命を試みた一面もあったのではないかと考えています。また、その後の演歌が商業的に成功した期間が短かった、という指摘も覚えておくべきでしょう。

また、話はそれますが音楽史としてP62から「この注文に対して晋平は、伝統的な民謡音階(田舎節)と西洋の長音階の折衷であるヨナ抜き長音階、(以下略)」「後にしばしば『日本的な音階』として人口に膾炙することになる『ヨナ抜き五音音階』は、大正期にきわめて近代的な意識に基づいて生みだされた和洋折衷の産物なのです。」(注:晋平=中山晋平 作曲家)とあり、これも心に留めておこうと思いました。

P77に「田舎調」の、そしてP79から田舎調を定式化した船村徹の話がでてきます。田舎、地方、土着。田舎は都会ほど変化が少ない。明治・大正からの姿、雰囲気、そして昔からの伝統がそのまま残っているように思える。だから、田舎を思わせる歌を歌うことが、演歌がそれこそ明治・大正の昔から存在するような錯覚をする一因になったのかもしれない。そんなことを想像しました。

P319で触れられている、すぎもとまさとの「吾亦紅」(2007)。私がこの曲を聴いて思ったのは、サウンド的には松山千春の「窓」(1979)のようなものなんじゃないかと。で、聴いてみたら後者は案外バンド的なアレンジがされていたのですが、それでも前者がサウンド的に演歌・歌謡曲のカテゴリに入るのは納得できないものがあります。

他にも作家(作曲家)に対する歌手の専属制度など昔の芸能界についての説明も興味深く読めました。また、作家・五木寛之の章では本書の主題とは別に氏の構成力の高さがうかがえて説明だけでも驚き感心しました。(氏の作品は未読であり、またその作品の主題に同意したわけでもないです。)

演歌についてはまた後で何か書くかもしれませんが、最後に「日本の心」という表現について。まず、日本の心とは日本人の心であり歌や音楽については各々異なる見解が多々あることから演歌もまた日本の心の一部ではあるのだろうけれどそれ以上の存在、例えば代表ではないこと。次に、演歌に限らず「○○は日本の心」と表現に出くわしたときに、特に○○と同ジャンルの事物は思考から排除されがちになるので気を付けること。ここではこの二点を指摘しておきます。
 
 
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今回は、意図せずして演歌っぽい曲になったこちら、


「いつか会う日には」歌は冷声ゼロさんです。
 

 

今回は音楽関係の本の特集です。