中世の食卓から(石井美樹子・ちくま文庫)感想

石井美紀子著「中世の食卓から」は、中世ヨーロッパ社会の王侯貴族から庶民まで、様々な人たちの食した様々な食べ物とその周りのことについて書かれたエッセイ集です。体系的というより断片的な感じですが、結果として食材というか題材がバラエティに富んでおり、文体は軽いのですが微に入り細を穿った内容ですのでちょっとした空き時間に少しずつ楽しめます。

 
目次(内容)は以下の通りです。

序にかえて ローストビーフとフォアグラ

おどけ者ジャック・プディング

うなぎとイギリス史

豚と王子様と惣菜屋

スパイスは食卓の王様

にしんは魚の王様

オムレツとプリンが戻ってくる日

饗宴と精進潔斎

羊飼いの饗宴

豆とスプーンと北斗七星

甘美なものには手で触れるべし ナイフとフォークの話

手洗いの儀式と汚れた手

チーズと道化

果物の王様、オレンジとレモン

りんごの花びら

女王様と爪楊枝

サラダ泥棒

愛の妙薬

寝取られ亭主と梨とさくらんぼ

お菓子とビールとエール

ティファニーで朝食を

ふとった王様とやせた子ども

アダムのりんご (文庫版に寄せて)

全体を通じて思ったのですが、中世ヨーロッパ社会といえばキリスト教の影響が強かったせいか、四旬節(レント)や降誕劇など、普段は知ることないキリスト教の習俗描写が多いのが新鮮でした。(ただ、本書で紹介されている風習が当時のヨーロッパ全土で行われていたのかどうかは、私には判断つかないです。)

また、話が脇道にそれて道化や王家の歴史の話題に入るのもなかなか楽しめて、飽きがきません。そして、当時の料理法がちょくちょく載っているので、再現してみたくなる方もいるのではないかと思います。

以下、個々に感じたことを書いておきます。

P.38の「反対に、クレタの人々のように、豚を神聖なものと見なし、その肉を食べようとはしない国民もいる。」「インドやカナン、エジプトやギリシアの古代社会では、豚は太母のシンボルだった。」の箇所は初めてきいた話です。イスラム教の布教地域と近いので、何かの影響があったのかも。

P102~103の大嘗祭と北斗七星のちょっとした話は覚えておこうと思いました(自分用メモ)。

P147「古代のバビロニア人たちも、天の東の入り口に真理の木と生命の木があると信じていた。」とのこと。また、P149にはギリシア神話のヘスペリデスの黄金のりんごの木との関連が語られています。

P153~154のギンガモールの話、城でのもてなし、タブー破り、帰還したら未来、老化、とどう考えても浦島太郎としか思えません。日本とヨーロッパとでイザナミ・イザナギの話(ラストの方)とギリシア神話のオルフェウスの話の類似がなくもないのですが、それでも驚きでした。

P199以降の話、noonの語源と一日の最初の食事がディナーというのが意外。ところでランチは……?

P219に知識の木はユダヤ人はオリーブ、葡萄、麦の束と考え、ギリシア人はいちじくの木と考えていた、とのこと。ここで思い出した話が一つあって、今は手元にないのですが、手塚治虫がキネマ旬報で連載していた「観たり撮ったり映したり」というエッセイがありまして。うろおぼえですが単行本を出した少し後に「ゆきゆきて、神軍」を観た影響で連載を続けられなくなり、その分までの単行本未収録を合わせて改めて出した……と思ったら、どの本にも収録されていない連載分があるようです。その中でアニメ「聖書物語」のエピソードがありまして。その設定をする際にヨーロッパのプロデューサーから言われたうちの一つが「禁断の実はリンゴではない、国によって解釈が違う」(大意)だった、ということを読んだ記憶があるので、あれはおそらくこういうことだったのかな、と思っています。

最後に。このエッセイは明治屋(食品等の小売業者、明治製菓にあらず)が発行していたPR誌「嗜好」に掲載されていたものに加筆した、とのことですが、調べてみたら同誌は1908年発行開始で2008年で休刊とのこと。これも日本の縮小の一環なのでしょうか。読んだことはないのですが、100年間お疲れ様でした。
 
 
●その他・雑感など

エノク書とかの聖書の外典からの引用が多かったのですが、それらはキリスト教の範疇に入れていいのか判断が難しいので少し距離をおいて捉えたほうがいいように思いました。また、外典はキリスト教に寄って書かれている分、民間伝承としても受け取りがたいものがあります。当初の購入目的は完全に果たしたとは言えないのですが、それでも細かい知識の記述が多いのは確かなので入手した甲斐がありました。
 
 
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今回は食べ物の歌をどうぞ。


「パスタを讃える歌」歌は王縄ムカデさんです。
 

 

今回は食べ物とかの特集です。