社会学講義 人と社会の学(富永健一著・中公新書)感想少な目

例えばコンビニのイートイン。買った菓子パンや飲み物をその場で食べることができる。夜遅く行くと、「この場所が使えるのは○○時から○○時までです。」などと書いてあり、意気消沈して他に安く落ち着いて食事のとれるところを探したりする。このイートインが増えてきたのはどんな背景があり、そしてこの傾向が続くのであればそれはどのような影響をもたらすか。このようなときに社会学が出て来て、イートインのあるコンビニの分布や駅までの距離、付近の住民や利用者の食生活なんかを調査し、実際の現場、現象に対する理論を推定してこれこれこのような理屈なのでこれからはこうなる、なんてことを言うのだろうと思います。

 
そんな社会学に少し興味をもってこの本を手にしたのですが、ちょっと大変でした。何しろ、前述のような「まず具体例を出してきてそれを解説する本」ではなく、「ひたすら抽象的な概念を分類し用語の定義を事細かに解説した本」だったのですから。序文には「本書は富永社会学の展示室たることをめざしたものである。」と書かれており、さらに「本書は予備知識をゼロと想定した意味での入門書とはいえないということを意識するようになった。」「本書はすでに社会科学のあれこれについて多少とも学んでこられたマルティディシプリナリー指向の学生や一般知識人を念頭において書かれた、ややハイレベルの社会学への案内であるといえるだろうか。」とある。具体例がないでもないのですが、それは抽象的な概念を説明するために引き合いに出されるのがほとんどで、このことからも「ちょっと社会学に触れてみよう」という人ではなく、既に社会学を学び始めた人にとっての本だといえます。

目次は以下の通りです(節まで)。

第一章 社会の学としての社会学
 第1節 社会学とは何か
 第2節 社会学の研究対象
 第3節 社会学の研究諸部門

第二章 理論社会学
 第1節 ミクロ社会学
 第2節 マクロ社会学(1)
 第3節 マクロ社会学(2)

第三章 領域社会学と経験社会学
 第1節 領域社会学
 第2節 経験社会学(1)
 第3節 経験社会学(2)

第四章 社会学史の主要な流れ
 第1節 前史と社会学第一世代
 第2節 社会学第二世代
 第3節 現代社会学の諸潮流

なお、第四章の第3節に「現代社会学」とありますが本書の初版は1995年4月ですのでご考慮願います。

何とか本書を、理解はさておき通読したのですが、それでも「ジンメルがミクロ社会学の創始者だというようなことは、ふつうの社会学史の本には書いていない。」(P74)なんて書かれていたり、あるいはゲマインシャフト行為(ゲマインシャフト関係)やゲゼルシャフト行為(ゲゼルシャフト関係)について詳細に説明されていると(P94)、脳に汗をかいてでも理解に取り組むような良い読者ではない、著者に対して申し訳なさすら感じる私でも本書を所持しておいたほうがいいのだろうな、と感じるものがあります。あと、P150から始まるポスト工業化、ポスト近代化の話とか。一通り読んで、そのあとどこかで気になる用語に出くわしたらこの本でその解説を確認する。そういう使い方をしようと思いました。

P167の家庭社会学から40ページぐらいがようやく普通通りのペースで読んだ箇所で、自分の関心がこの手の話題や語り口にあったのだな、と改めて自覚しました。あと、第四章以降の社会学史についての箇所、特にP302からの日本の社会学第二世代(高田保馬、戸田正三、新明正道。鈴木栄太郎は前の箇所ですでにくわしく紹介した、とのことでここでは省かれている)については興味を惹(ひ)かれました。

惜しむらくは本書は当初の構想から割愛などで短くなったとのことで、序文や他の箇所でその経緯が述べられているのですが、そう書かれると本書の内容を把握したとはいえない私もこの本が上下2巻、あるいは上中下3巻で書かれていたら、と世の中ままならぬことは多いとはいえそういう思いが残っています。
 
 
【宣伝です!】趣味で作曲した作品の動画などをYoutubeで公開してます。
チャンネル登録していただけたらありがたいです。ニコニコ動画もどうぞ。

人の世の幸せって何だろうね。


曲は「しあわせ」 歌は雛音サラさんです。
 

 

今回は社会学と富永健一の特集です。