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  • ギリシアの美術(澤柳大五郎・岩波新書)感想

    この本を書店で見かけて、「むむっ」と思った方もいるのではないかと思います。厚い。新書にしてはワンランク厚い。本文がおよそ260ページ。厚い。中をパラパラめくってみると、白黒ですが写真や図版が多いのがわかります。つまり、ちょっとしたギリシア美術の写真集のような意味合いもあるわけで、これだけで少しうれしいものです。

     
    さらに、文章がいい。巧いというより、いいものを読み手にいいと感じさせる、という意味で本当にいい文章だと感じました。内容自体も、その美術作品に対してのみならず、その背景、ギリシアの歴史についても事細かに書かれていて、情報量の面でもすごいと思いました。第1刷が1964年、55年前の本ですが目を通す価値は十分にあります。P75に「最近漸く解読された紀元前十五世紀頃の<線文字B>」(漸く=ようやく)なんて表現も出てきます。本書の構成は、年代的というより、テーマ別に沿って語られたエッセイです。以下に目次を記載します。

    ギリシアの風景-序に代えて-

    I
    エルギン マーブル
    原作と摸作
    神話と美術
    神域
    アゴン

    II
    英雄時代-プロローグ-
    幾何学文様
    アルカイク
    神殿
    アッティカ陶器
    厳格な様式
    パルテノン時代
    墓碑
    四世紀
    夕映え

    あとがき

    以下、印象に残ったことをいろいろ書いていきます。

    P1の「実際ギリシアの空気は特別である。」以下は、ギリシアでは景色がはっきり見えて日本をもイタリアとも違う、という話です。以前、芸術作品はその土地の特徴、風土に影響を受けるので万国共通に感銘を与えるとはいえない、という趣旨の文章を読んだことがあることを思い起こさせました。

    P19からの摸作の話はちょっとショックなことが書いてありました。ギリシアの美術品にはオリジナルが現存しない摸作が沢山ある、ミュロンの円盤投げの像も今あるのは全て摸作、という話です。そして著者はこう述べています。「わたくしは読者に申し上げ度い。摸作には一切目も呉れず、ただひたすらに原作にのみ接し給えと。」これについては確かにその通りだと感じました。

    P33の「美術以外には全く典拠をもたない神話傳説も少くはない」(注:傳=伝)も他では聞かない話で、これも考えようによっては深い話になりそうです。私は、文字(言葉)よりも絵画のほうが、そして絵画よりも音楽のほうが、受け取る側の判断基準に論理よりも感覚が占める割合が多くなると考えてます。おそらく音楽(歌ではなく言葉を用いないインストゥルメンタル、器楽曲)以外に典拠をもたない神話や伝説は今のところ発見されていないと思いますが、絵画のような、伝達手段がより感覚に頼るメディアによる神話や伝説は、文字によるメディアのみの神話や伝説に比べて受け手の心情にどのような差異をもたらすか興味があります。

    紹介が前後しますが、P32の「美術家は神話の解釈者であり創造者であった。」と合わせて考えると、このような社会で美術家はどのように受け止められていたのか、人々の心を動かす神話を題材にした作品を創った作者は今の人が僧侶や神官を見るような意味合いをも含んでいたのか、時間のあるときに想像してみたいところです。

    P50、ピナコテカって絵画館って意味だったのですね。ピナコテカレコードというレーベル名をきいたことがあるのでへぇー、と思ったり。アマゾンにピナコテカレコードのタコ(TACO)の作品が2件ありました。


     

    P52のギリシアの神域では「様々の建物は大きさも方位も配列も全く無計画に雑然と立って居る。」ことから、次の疑問が出てきます。P53「一箇の建築にあれほどの秩序と均斉を与えたギリシア人がその建物相互、彫像相互の配列にはどうしてこうも無造作にこの無秩序に甘んじ得たのだろう。」と。その答えは、しばらくギリシアに滞在し続けた著者にとっては折り合いがつくものであり、私も、なるほどそういう考えもあるものだな、と感じました。

    P57からのアゴン(競技(体育に限らない)、わざくらべ)の解説も、アゴンの概要、何がどのように開催されたかとともに、その中心にあるギリシア人の価値観やその価値観が成し遂げた芸術に至るまで丁寧に述べています。アゴン自体、私はきいたことが無かったので読んでなかなかためになったと思いました。

    P70の写真、キュクラデスの首は現代美術を思わせる素朴、あるいは抽象的な作風の彫刻です。この作品が当時の人々にどのように受け止められてのか、もしかしたらこれはこれで受け入れられていたのかもしれない、と少しそんな期待をしています。

    P99の最後の行から、大理石彫刻や建築の彩色の話題に触れています。これについては初めて知りました。結構当初は色が塗られていたようで少々驚いています。今まで白のイメージに囚われすぎていたというか、でも、この本を読まなけば知る機会も無かったろうから、適切な知識を適切なときに得るのは難しいと感じました。

    P105のギリシアの神殿についての洞察、「この日本の切妻屋根、妻入りの建物と同じ基本構造はギリシア神殿がもと木造から発達したことを物語る。」これも彩色と同様に考えたことすらなく、元からあれは石を積んでつくったものとしか認識していなかったので専門家というのはすごいとただただ感心しました。

    P120からのアッティカ陶器の話。先の美術を典拠とした神話伝説の話と似ていて、陶器に書かれた絵が他に代えがたい重要な資料となる話です。日本でも銅鐸に描かれていた絵から当時の社会や生活を探ることがありますが、古代ギリシアの資料ではこれが結構な位置を占めているようで、しかも芸術的絵画といえるものもあるとのこと。見ると、陶器の曲面が平面に描かれた絵とは異なる独特な効果を生み出していて、これは確かに人の心に訴えかけるものがあります。

    P172。パルテノン神殿についての文章。感動のために理屈、論理があるが、しかしその理屈や論理を語ることが必ずしも感動を語ることにはならない。ただただ、本文を読んで味わっていただきたいです。

    P194は、P1(とP13から)の話につながる、今に通じる難しいテーマです。屋外芸術品はどこにあるべきか。これもじっくり読むことをお勧めします。

    P215からの前四世紀の記述、なるほど、古代ギリシアとはいっても社会に変化が生じる以上、作品をみる目も変えなければいけない。少し気を付けなければ。

    P256のあとがきを除く締めくくりの文章。ミロのヴェニュス(ビーナス)。最後にふさわしい、奥深さを感じるいい文章でした。本当に、この本を買ってよかったです。

    最後に。この本の最後に索引、年代順図番目録もあってこれもまた充実しています。ギリシア美術に興味、関心のある方なら買ってじっくり読んでこの世界に浸れる、そんな本だとつくづく感じました。
     
     
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    今回はこの曲です。いにしえの美に想いを寄せて……


    「月の夜に静かに」歌は朱音イナリさんです。
     

     

    上段は著者、澤柳大五郎の本です。真ん中の書名は「アッティカの墓碑」です。

    ここからは古代ギリシアの本です。

    「ソクラテスの弁明」は「パイドーン」まで収められている次の段の左の二冊の新潮版をおすすめします。ソクラテスの死後の世界に対する考え方が述べられている「パイドーン」まで読んでおかないと「ソクラテスの弁明」を考えるにあたって不十分だと思いますので。

    最後のTM NETWOEKのアルバムは、最後の曲「ELECTRIC PROPHET(電気じかけの予言者)」の舞台がギリシアなので取り上げました。


  • 文庫と新書の世界詩集のお値段は?

    この前、悪くない状態のフランス名詩選(岩波文庫)を100円で買った話をしたのですが、そこで気になったことがあります。詩集、それも世界のある国の詩を網羅しようという意図で編纂された書物は、案外安いのではないか、と。

    そこで、少し調べてみることにしました。先の条件に加え、文庫または新書サイズであること、時代によって区切られていないこと(よって唐詩やマザーグースの本などは対象外)、初心者向けのガイドでないこと、「愛の詩」のようなテーマに沿ったものでないことを制限事項としました。アマゾン検索で探しました。

    「アルゼンチン名詩選とかないかな」と思ったのですが、結論からいうとその手の本自体あまりありませんでした。英仏独米中朝ぐらいで、あとは少し条件を緩めてネイティブアメリカン(アメリカ・インディアン)、ジプシー、古代ギリシア、少し恣意的になってしまいましたが、探せたのはこれぐらいです。

    それでは出版社別に説明します。まず岩波文庫から。古豪の実力を見せつけるかのように英仏独米中が揃っています。中国については中国名詩「集」一冊にまとまっているのですが、なにしろ「唐詩選」だけで3冊出しているので物足りない方もいるかもしれません。なので、中国名詩「選」も3冊入れておきました。

    現時点(5月4日)で中古のお値段(送料別)は、以下の通りです。

    イギリス名詩選 1円
    フランス名詩選 131円
    ドイツ名詩選 39円
    アメリカ名詩選 128円
    中国名詩集 1000円

    合計 1299円(英仏独米で299円)

    中国名詩選(上) 590円
    中国名詩選(中) 804円
    中国名詩選(下) 1231円

    合計 2625円

    ええと、中国ばかりでなく、もっと他の国の詩にも目を向けたほうがいいと思いました。なお、話題にした以上、唐詩選もご用意しました。

    中古のお値段(送料別)は、同様に5月4日の時点で以下の通りです。

    唐詩選(上) 70円
    唐詩選(中) 1円
    唐詩選(下) 29円

    合計 100円

    あら、こちらは安いのね。ちょっとびっくり。

    英仏独米中は岩波の本を読む(よって他の出版社の英仏独米中の本は除外する)として、他の国はないかと各社の文庫を探したら、講談社学術文庫に朝鮮半島の定型詩「時調(シジョ)」についての本がありました。現時点で未読であり、時調以外の詩はないようですので少し物足りないのですが、他に文庫・新書サイズで朝鮮半島の詩の世界を網羅した本もないですのでここでとりあげます。

    中古のお値段(送料別)は、以下の通りです(5月4日時点)。

    朝鮮の詩ごころ―「時調(シジョ)」の世界 607円

    他に色々探して見つからない中で気を吐いたのが平凡社ライブラリーです。先の条件の本って文庫サイズでは見当たらないです。始めの2冊は民族の詩についてまとめたもの、ギリシア詩文抄については詩「も」載っている、しかも3冊とも時代(詩の製作年代)が限定されているようです(いずれも未読)。

    中古のお値段(送料別)は、以下の通りです(5月4日時点)。

    アメリカ・インディアンの口承詩 1980円
    ジプシー歌集 1210円
    ギリシア詩文抄 219円

    合計 3409円

    うーん、ここまでバラバラだとコメントに困る。

    さて、新書です。2冊しかありませんでした。岩波新書と中公新書。しかも「ギリシアの詩」は出版社のサイトによると古代ギリシアの古典全般の解説書のようです。また、「アメリカ・インディアンの詩」は南山大学のサイトによると、本書を増補改訂・改題したものが思潮社から出版され、さらにそれを平凡社ライブラリーに入れたのが先の「アメリカ・インディアンの口承詩」とのことです。

    中古のお値段(送料別)は、以下の通りです(5月4日時点)。

    ギリシアの詩 995円
    アメリカ・インディアンの詩 235円

    合計 1230円

    となると、予算も考えておすすめするのが以下のセットとなります。

    イギリス名詩選 1円
    フランス名詩選 131円
    ドイツ名詩選 39円
    アメリカ名詩選 128円

    ここまで299円です。これに、以下の5冊を組み合わせる感じでしょうか。

    中国名詩集 1000円
    朝鮮の詩ごころ―「時調(シジョ)」の世界 607円
    ギリシアの詩 995円
    アメリカ・インディアンの口承詩 1980円
    ジプシー歌集 1210円

    お手軽に手に入れられて深く味わえるのが詩の魅力です。これも何かの縁だと思っていただければ幸いです。
     
     
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    今回はこの曲です。


    詩的かな?
     

     

    そしてまた詩の本を!


  • スパルタとアテネ―古典古代のポリス社会(太田秀通著・岩波新書)感想

    おそらく、古代ギリシアのことに興味があるのなら最近出た本の中から選んで読んだ方がいいと思います。というのも、この本の初版は1970年、今から38年前であり、線文字B類の解読が大きな話題となっているぐらいなので、それならそれ以降の研究が反映された本のほうが真実に近づいていると考えられるからです。ただ、文章が平易で読みやすいこと、覚えておきたい考察が沢山あったことから結構この本を気に入ってます。また、本書は値段的にも手に入りやすいはずですので、その意味でも機会があればご一読をお勧めします。

    「ギリシアの美術」は同時に買いました。この際ですので「ヨーロッパ思想入門」もお勧めしておきます。ギリシア哲学にも触れていて、なかなか読み応えがありました。

     
    それでは本書を紹介します。「I 古典古代とはどんな時代か」では古典古代という言葉の持つ意味の解説と「古代ギリシア・ローマ」の概念の推奨、当時の国家やポリスの形態をおおまかに説明しています。本書によると「ポリスの国名は『アテネ人』『ラケダイモン人』『コリント人』『テーベ人』『アルゴス人』等々」(P13)とのことで、「アテネ人とは、アテネの市民団を意味し、」(同)ていた、とのことです。また、市民と土地の関係、自由やアレテー(「良さ」)にまつわる価値観、政治論について語られてます。

    「II 東地中海世界とホメロスの世界」で先に述べた線文字B類の話題が出てきます。そして、その解読の成果として当時のギリシアの社会をどう考えるべきか、について語られてます。また、土地と天候が農業に影響を与え、その農業を維持するためにどのような社会を形成したか、特に土地の所有のとの関わりについて詳しく分析しています。

    「III 貴族政ポリスとその危機」では身分、すなわち奴隷だとか農民、市民の実態について説明しています。農民の説明にヘシオドスの詩が引用されているのが印象的です。そして貴族政での社会の発展、立法家や僭主の登場、文化や学問の発展についてかなり語っています。コロフォンのクセノファネスの「ライオンが人間のように手をもっておればライオンと同じような神を描くだろうし、」(P75)という考え方が好きです。また、商工業が発展して貨幣を使うようになった結果、現実と本質を区別できる抽象能力が発達して哲学が発達した、というのもいい発想だと思います。(ただし、他のところではどうだったのか、という疑問もありますが。)

    「IV スパルタ―その国制の特徴―」では、スパルタの特異性を書き綴ってます。「敵に対する巧妙な攻撃と狡猾さを養うために盗みを奨励され、」(P88)だけでもインパクトが強い上に、その文の後に続くのは「また核心に迫るような短い言葉を吐くことを教えられた。」(同)で、スパルタ人がツイッターを始めたらどうなるのだろう、とか思ってしまいます。そして、そんなスパルタがどのようにして成立し、そしてどんな行く末をたどったのか、について書かれています。

    「V アテネ―その国制と政治過程―」ではアテネの政治体制、社会、歴史について述べています。殺人が「国家に対する犯罪」になるまでの過程(P106)が印象に残ります。また、書物「アテネ人の国制」を元に立法家ドラコンについて、そしてその後アテネを改革したソロンやクレイステネスについて多く語っています。鎌倉時代の徳政令を思わせる負債の帳消しがこの時代にもあったなんて驚きでした(P119)。

    「IV 戦争と平和のポリス社会」で、アテネとスパルタがともに語られます。政治、身分制度、土地所有の差、そして大国ペルシアとの戦史。その後の、アテネ中心でありながらポリスの概念の枷を超えられないが故にアテネの統一とはなりえないギリシアの歴史。そしてアテネの民主政についてはペリクレスの見事な演説を引き合いに出して説明しています。しかし、その後アテネは盛者必衰としかいいようのない事態に陥ります。章の最後にアテネの国家財政について触れています。

    「IIV ポリス市民の意識構造」は最終章で、祭典、アポロン、ディオニュソス、悲劇、喜劇がキーワードです。特に悲劇と喜劇については、それらがもつ社会的意味合いも含めて詳しく解説してます。また、ギリシア哲学についてはソクラテスの思想と当時のギリシア社会との関わり合いについてまとめています。そして最後に、このギリシア社会について引っ掛かりを感じる要素、奴隷制について論じています。

    一番読んでよかったと思えるのは最終章で、ギリシアの文化と思想について感心することが多かったです。でも、それらを生みだしたのはどのような社会であったか、という視点も重要で、それは今後もできるだけ意識しておきたいと思っています。

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    そして我々はどこへ向かうのか。


    曲は「マリオ」歌は冷声ゼロさんです。
     

     

    今回のアフィリエイトはギリシア特集です。

    最後の本は、むかーし読んだことがあるような……


  • 日本神話(上田正昭著・岩波新書) メモ

    それにしても読みづらかった……入れ込んで読んだせいか、「この話は結局どこに着地するのだろう」「改めてライターの手が入れば、また違った読感になるのだろうか」などと何度も思いました。文の結論まで覚えておかなければならないことが多かったような……頭がこんがらがってきたら、開き直って流し読みでその話題の終わりまで読んでみることをお勧めします。

     
    上田正昭著「日本神話」(岩波新書、1970)は、日本神話の話題を広く網羅している本です。読んだ感想は前段の通りですが、議論されている内容は日本神話に興味のある方なら関心を持つことが多いと思います。

    本書の私なりのメモを以下に記します。ポイントは個人的なものです。

    序 日本神話の再発見

    ポイント:
    P.7 呉太伯後裔説(中世の解釈)
    P.11-12 神道国教化の記述

    I 神代史のはじまり

    1 口誦と記録

    概要:「読み」を文字化(漢字表記)するのは難しい、という話

    ポイント:
    P.23 江田船山古墳の太刀銘文
    P.25 大和の文氏(東書直)、河内の文氏(西書首)
    P.25 隅田八幡宮蔵の人物画像鏡銘文
    P.28-34 語部(という役職)とその内容について
    P.31 大贄
    P.34-38 銅鐸

    2 神話の舞台

    ポイント:
    P.44-47 憑りまし、巫女、卑弥呼、アマテラス、アメノウズメ
    P.47 コトシロヌシ(辞代主[事代主])
    P.47-50 サニワ(審神者、沙庭)、サニワのサは神稲の意
    P.50-52 志斐の翁と嫗
    P.52-61 たましい、けがれ、殯(もがり)、ひつぎ、祖霊

    3 三つの神代史

    ポイント:
    P.63-72 古事記における天武天皇、元明天皇、太安萬侶[太安万侶]
    P.69 古事記の序文の手本は唐の長孫無忌の進五経正義表や進律䟽義表(䟽は足へんに流のつくり)
    P.70-72 アマテラス
    P.71 日食神話は日本特有ではない
    P.73-79 日本書紀(古事記との比較)、韓の国、帰化系の和氏(やまとし)と日本在来の大和氏
    P.79 出雲国風土記、ヤツカミヅオミヅヌノミコト、オミヅヌノミコト(淤美豆奴命[意美豆努命])

    II 天つ神の世界

    1 天地の創成

    ポイント:
    P.87 記紀の冒頭や序文における淮南子、三五歴紀、周易正義、列子、東南アジア・ポリネシアに広がる海洋民の神話の影響
    P.88 三・五・七の中国ふうの聖数の概念
    P.89 中国の天・天帝の観念
    (自分としては数合わせのために神を削るか疑問)
    P.89-90 アメノミナカヌシはほとんど祭祀されていない、ちなんだ社名のものは北辰大明神をまつった妙見社が本姿
    P.90 国生み……蒙古語族のカルミュク族などの神話にもある
    P.90-91 おのごろ島は大阪湾上のどこかに
    P.93 越洲をふくまない所伝のほうが、より古い国土意識を背景とする
    P.93 ヒルコ……台湾高砂族、沖縄、東北地方の民俗に関連
    P.95-97 国生み神話の原初の姿は、淡路地方を中心にした海人たちのあいだにはぐくまれた島生みをめぐる信仰にあったと考えられる……八十島祭、住吉大社の恵比須まつり
    P.96 エビス……中華思想にもとづく化外の意識

    2 天つ神の誕生

    概要:アマテラス・ツクヨミ・スサノオの話

    ポイント:
    P100 アマテラス……元は日の神に奉仕する女神
    P101 ツクヨミ……元は月齢を数えること
    P101 日本神話は夜空の天体についての認識がきわめてとぼしい
    P101 夜の神=月の神が、日の神とともに天上を治める神話は他の民族にもあって、
    P101-105 ツクヨミは、元は壱岐(海人集団)の神
    P106 根の国は、元は海原の彼方(根拠は大祓の祝詞)
    P107 北方的な要素が強い(北方系シャーマニズム、北方アジア系の建国神話)
    P107-108 黄泉比良坂

    3 皇祖神の源流

    ポイント:
    P113 (アマテラスの)本体は地方神としての日の神
    P113 延喜式神名帳はすべての神社を登録している神社台帳ではない
    P115 本来日の神は、農耕民のあいだで、かなりひろくまつられていた神であった。
    P122 タカミムスビ(神体木(神籬)と田の神)こそが皇祖アマテラスオオミカミよりも原初の神、オオヒルメムチはこの神に仕える巫女
    P122 月の神・日の神の託宣では「タカミムスビがわが祖」
    P125 タカミムスビは対馬あたりと密接な関連をもった文化を背景にする神

    III 国つ神群像

    1 天と国と

    概要:天つ神と国つ神の分類について、出雲氏・鴨氏秦氏の奉斎神から考える

    ポイント:
    P133 意宇の熊野大神はこの地方の農耕神としての性格がつよい
    P137 ヤタガラス(八咫烏)をトーテミズムの痕跡とはいえない(作りあげられた伝承)
    P141-145 スサノオ

    2 葦原の中つ国

    概要:出雲地方とオオナムチ(大国主命)

    ポイント:
    P147-149 出雲という地名について
    P151-152 神宝
    P152-154 オオナムチ(大国主命)の名前
    P155 農耕神こそがオオクニヌシの原初の姿であった
    P155 火の山の神をあおがれるような神とさえなる
    P156-157 スクナヒコナ(農耕神)もオオナムチも海から来臨
    P157-160 佐太大神(佐陀神)も海から来臨する農耕神(佐太=狭田(細長い田))、祖母はカミムスビ(祖型は南方的要素が強いと思われる)

    3 国ゆずりの軌跡

    概要:出雲の国ゆずり神話について、熊野大社・杵築大社

    ポイント:
    P165 出雲地方が中央に帰属するようになってから、出雲の勢力が大和へ移住したり、あるいは出雲の文化が中央にはいった結果とみるほうが適当
    P173-174 改新の詔の副文は、『日本書紀』の編者がのちの知識で書いたところがあって、そのままには信用できない。
    P175 出雲臣果安
    P177-181 タケミカヅチ(雷神・天神・雨乞い)、フツヌシ(剣の神格
    化)
    P182-185 コトシロヌシ(海神)、唖
    P185 「八尋熊鰐(やひろわに)となりて」、東アジアには熊を水神とする信仰がかなりあり、

    IV 神話の重層

    1 山上来臨

    ポイント:
    P190 ニニギノミコト……山上に来臨する神と、海上を遊幸する神
    P190-191 山上に国づくりの神……北方アジアに広く分布(檀君神話、辰韓の始祖、高句麗の始祖(朱蒙)、蒙古の神話(ゲセル・ボグドウ))
    P191 朱蒙、加羅(首露)、新羅(赫居世・脱解)は卵生、卵生は日本神話にはない
    P191 加羅(首露)、新羅(脱解)、沖縄の祖神アマミキョは海辺遊幸的
    P191-192 ニニギ……海洋民系神話の要素も
    P193-195 高千穂
    P195 五伴緒・五部神……「五」はツングース系の大陸遊牧民由来?
    P197-200 久米部
    P201 宮廷の御神楽にも韓神のまつりや韓風の神招き(かんおき)は入っていた
    P201-202 三種の神器について

    2 海上遊幸

    ポイント:
    P205 コノハナノサクヤヒメ……”バナナ・タイプ”セレベス島ポソ地方、マライ半島、インドネシア・ニューギニア
    P206 出産のおりに火をたく……東南アジア、奄美大島
    P207 海幸彦・山幸彦……セレベス島ミナハッサ、南洋パラウ島
    P207 海神の娘との結婚譚……ニューブリテン島
    P207-210 隼人の海幸彦山幸彦神話は、東南アジア諸地域とのつながりの深い海上遊幸の神話であった。
    P210 タブー(禁忌)を破って海の女神の姿を見て離婚……東アジアやインドシナあたりにある。
    P211 海神の女が、海辺によりきたって子神を生む神話は、海のかなたより来訪する母子神の信仰が母胎
    P211-212 母子神と海・川・田
    P213 海原を古事記は『妣の国』と呼んでいる
    P214 トコヨノクニ(常世)は沖縄のニライカナイと同系の妣の国
    P215 常陸国風土記には神仙思想とのつながりを示す意識も
    P215 出雲・南九州・伊勢・茨城の海上……黒潮(文化)の影響
    P215 紀伊半島と房総半島の地名には共通するものが少なくない
    P217 大生部多の常世の神……道教的信仰、シャーマン的

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    今回は春を望む歌をどうぞ。


    「星のつぼみ」歌は野々原くろとさんです。
     

     

    以下は日本神話の本の特集です。

    ※中島らも「ガダラの豚」は大生部多のエピソードをちょっと使っています。長くて楽しめる少し不思議な感じのエンターテイメント小説です。