神話の系譜(大林太良著・講談社学術文庫)感想

本書を一言で表すなら「日本神話に似た神話は各地に沢山ある」です。もう、そうとしか言いようがありません。初っ端の目から太陽と月が生まれた話の類例からして圧倒されました。事例は非常に多く、人類の産み出した神話の、つまり想像の豊富さにただただため息をつくばかりです。神話にしろ何にしろ満ち足りたところがないと話なんかつくれないので、この精神的な財産の大きさは本当にすごいものです。

 
本書の特徴は、日本神話を軸に世界の各地域について章立てして比較していることです。以下に各章を記します。

I 世界を視野に入れて
II 中国の民間伝承と比較する
III 朝鮮神話との関係
IV 北方ユーラシア・印欧世界への視線
V つらなる東南アジア・オセアニア

地域に重点が置かれている分、古事記・日本書紀からは各章の地域と各論のテーマに沿った箇所を引き出しているので、日本神話の時系列順からすると把握しづらいのが難点でしょうか。まあそれは、割り切って考えていただければと。

私が本書で特に注目したところといえば、まずP25からの洪水の話でここではノアの洪水については触れていないのですが、P38~39に他の動物を絶滅から救ったといえる話が南アメリカにあったのは何か共通するところとかあったのか気になるところです。

また、P61からの古代中国の聖王伝承についての記述で、鯀(こん)の息子、禹(う)は「治水工事をしているときは熊に変身していた。」とあるのですが、熊といえば吉田敦彦著の「日本神話の源流」で、朝鮮半島の檀君神話で熊が人間の女になった話を紹介していたのを思い出しました。神話における熊に関する研究もどこかでされているのでしょう。気が向いたら探してみようと思います。

P116からの神武東征伝説と百済建国伝説について。天界・陸界・水界を表す動物が出てくる話になるのですが、読んで思い浮かんだ話が桃太郎でこの論と結びつけることはできないだろうか、ということです。なお、先の論では水界を表す動物、陸界を表す動物、天界を表す動物の順で話に出てくるのですが、桃太郎のお供になるのは犬、猿、雉の順。どうも、犬と水とが結びつかなくて、狂犬病で水を恐れるのはおそらく違うだろうし、何となくですが水と結びつけるのなら猿だろうという気がします。

それと、P193から日本とイランに共通する話が二つ挙げられていて、その話の特異性が際立っていて気に掛かります。一つはその日本で伝わった話のラストが天の岩戸の変形のようでもあり、ハーメルンの笛吹き男のようでもあり、もう一つもその夢のイメージがこの本で初めて知った話だったので、やはりそれは不思議なものだと同時に面白くも感じました。

あとがきを除いた本文が300ページ近い厚めの本でこの本でないと知るきっかけがない神話が沢山載っている、それだけでも私にとっては大いに満足できる内容でした。なお、青土社の原著は1986発行なので30年以上たった現在日本神話の研究がどこまで進んだのだろうと思うと目が眩(くら)むような思いがします。最近の本も読んどかないとなあ、と思う今日この頃です。
 
 
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水の向こうに想いを馳せて……


「水の鏡β」 歌は出宅ナイさんです。
 

 

旧事本紀(高い)が気になれば古語拾遺も気になり、神道集が気になれば祝詞、縁起の類も気になるのできりがない。助けて。